日本企業のデジタルトランスフォーメーションとマインドセット

新規事業

2019年09月19日(木)掲載

昨今、多くの企業が取り組みを始めている「デジタルトランスフォーメーション」。本稿ではHiPro Bizに登録をいただいている大手製造業出身の現役CTOに、日本の大手企業がデジタルトランスフォーメーションを推進するうえで必要なマインドセットについて取材させていただきました。是非、ご覧ください。

日本経済の凋落の実態

近年、日本経済の凋落が深刻に懸念されています。経済産業省による「通商白書2016」に記載のある主要国のGDP推移を読み解くと、2017年の名目GDPの対2000年成長率は、中国4.5倍、米国1.9倍、独国1.5倍、日本1.04倍、日本だけが所謂失われた20年、略ゼロ成長です。名目GDPで世界第三位、2010年に中国に抜かれたとは言え日本経済はまだ行けるなどと言っていらない状況です。

何故なら日本が世界三位でいられるのは先進国の中で日本の人口が多いからに他なりませんが、日本の総人口は2015年から減少に転じ、今後の人口の減少幅は主要7カ国の中で日本が最も大きいのです。それだけではなく、高齢化率の上昇幅も日本が最も大きいことはご存じの通りです。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、今後50年で日本の人口は30%減、2.6人に一人は65歳以上となると予想されています。今日までの停滞以上に今後の本格的な凋落が懸念される所以です。高齢化が進む中でGDPの縮小を迎えると、年金、健康保険、介護保険などの社会保障レベルの現状維持は難しくなります。GDP総額は止むを得ないとしても、せめて名目GDPを人口で割った国民一人当たりの生産性を挙げなければ、近い将来日本は貧困の国となってしまうリスクが高いです。その、国民一人当たりのGDPでも、2000年に世界2位だった日本は、現2019年時点で26位まで後退しています。

国の経済成長率と企業の収益性指標ROA(総資産利益率)には強い相関があります(H26内閣府・中長期的な経済成長と発展資料より)。日本経済の場合、国民一人当たりの生産性の成長率は、(特に製造業を中心とした)企業の生産性(ROA)で端的に表れます。業種によって多少の差はあるものの日本企業のROAは米国企業と比べて総じて著しく低水準です。

つまり、日本経済の停滞/下落する課題、特に国民一人当たりのGDP下落の本質は、日本企業の低収益性(ROA)という、日本企業の在り方の問題と言える側面があります。

日本企業が世界で取り残された理由

では、日本企業の収益性(ROA)が世界経済の中で取り残されたのは何故でしょうか。85年プラザ合意による円高誘導、これを受けた日本政府の低金利/財政出動の失敗、そして92年バブル崩壊という、よく語られる日本の特殊な経済史の影響では、2000年以降の日本企業の停滞/下落は説明できません。回復/成長出来ないのは、それ以降の20年間の企業競争力の低下が理由の可能性が高いです。

競争力低下の理由として、アジアを中心とする新興国がコスト競争力を背景に台頭したことが挙げられます。確かに、デジタル製品技術の進化の結果として様々な技術がモジュール化され、家電に代表される工業製品の開発競争がグローバル化・コモディティ化しました。そして現時点で日本が世界で活躍できている領域は、主として高機能なモジュールや材料などの高機能部品、そして高度な擦り合わせ製品領域に追いやられて来ています。しかし、新興国台頭の影響は、欧米企業でも同じ状況ですから、日本だけが取り残された理由としては弱いのです。

日本企業だけが世界経済の中で取り残されたように見える本当の理由、即ち、日本企業と欧米企業との本質的な差は、「デジタルトランスフォーメーションの出遅れ」と「イノベーションへの消極志向」の二つであると考えられます。この二つが相乗的にこれまでの日本経済の停滞を誘因していると考えられます。この二つに共通していることは、日本企業が時代のパラダイムシフトについて行けず、過去の成功体験からの脱皮、即ち新たなマインドセットが出来ていないことに起因していることだと思います。そして、このままでは今後更なる深刻な凋落が予感されます。

デジタルトランスフォーメーションの出遅れ

日本のデジタルトランスフォーメーションの現状は、世界との比較では正に周回遅れと言わざるを得ないでしょう。経産省は、ものづくり白書2018の中で日本企業のデジタルトランスフォーメーションの遅れに強い危機感を表明しています。2019年に閣議決定した経済成長戦略でも民間の早急なアクションが必要、ここ2~3年が勝負としています。経団連自身も同様の警鐘を鳴らしています。

しかし、当の日本企業の実態としては、デジタルトランスフォーメーションを、対岸の火事、BUZZ wordと高を括る、或いはそこまででないとしても、何を目的にどう取組むべきかが解らず動けない等、と言ったところが正直なところではないでしょうか。

モノ作り/サービス/社会の仕組みなど様々な領域で、日本らしい質で勝負して、過去に成功を収めて来た日本企業にとって、デジタルトランスフォーメーションにはジレンマ的側面が強いことも事実です。しかし危機感の欠如した 『茹で蛙』 と言われても否めない状況まで来てはいないでしょうか。

様々な場面で様々な企業と話して感じるのは、デジタルトランスフォーメーションを標榜しながら、その概念や目的が明確になっていない日本企業が未だ多いということです。デジタルトランスフォーメーションの、具体的な実現手段は各企業に応じて異なると思いますが、概念や目的が不明確でバラバラなことが、日本企業のデジタルトランスフォーメーションが遅々として進まない原因の一つとなっている気がします。

デジタルトランスフォーメーション(即ちデジタル変革)とは、デジタル技術(特にコネクティビィ)を活用して、従来のビジネスを根底から変化させる、或いは新しいビジネスモデルへ転移させることを中心とする概念です。トランスフォーメーション(変革)する対象は、ビジネスやビジネスモデルです。

しかし時折、アナログ技術のデジタル技術化、IT化と、デジタルトランスフォーメーションを混同している場合があります。デジタル技術化やIT化は効率や生産性を挙げる為の技術手段、作用対象は仕事やワークフローです。そのため、デジタルトランスフォーメーション、即ち新しいビジネスを創出する為の手段として、デジタル技術化やIT化を活用することは多々ありますが、デジタル技術化やIT化したからと言って、新しいビジネスを創出できる、即ちデジタルトランスフォーメーションのレベルに到達するとは限らない、という関係にあります。

ドイツ発のインダストリー4.0というデジタルトランスフォーメーションの概念は、単に生産現場をデジタル技術化やIT化することではなく、例えば顧客毎にカスタマイズされた多品種大量生産を実現し、或いは無駄な在庫をゼロ化するといった、全く新しいビジネスやビジネスモデルへの転換の概念です。

デジタル変革の時代に、“人”ではなく“デジタル”に仕事をさせパラダイムシフトをしているのに、マインドセットを変えられずデジタルトランスフォーメーションが進まないのです。それは単なる効率改善でなく、製品価値中心から顧客価値中心にビジネス(モデル)を変革すべき時代の流れに付いて行けていないことを意味します。

イノベーションへの消極志向

事業の成功には、連続的な差別化競争に勝つか、非連続的なイノベーションの創出で勝つかの2つがあります。日本企業は前者、即ち、同じ様な企業が、同じ業界で、同じ様な製品を提供する、横並びの競争環境で過去に成功を収めてきました。均質化された一定の枠内での品質/コスト/機能の差別化競争です。過当競争であっても、日本国内の人口が増加し、尚且つ海外進出で市場開拓できる時代には経済成長は成立したのです。寧ろ、過当競争の切磋琢磨を成長の原動力として、連続的な製品進化を担って来ました。

しかし現在は、国内の消費パワーが減じ、グローバル化が進み、製品開発力としても新興国にお株を奪われ、何よりもモノ余りの時代に、そのパターンでは儲からない、低いROAに陥る時代となっています。
日本企業のROAが著しく低い理由がここにあります。また、日本企業のROAは低いばかりではなく、ばらつきが米国と比べ著しく小さいというデータがあります。

ローリスク・ローリターン志向の日本企業に対し、米国はハイリスク・ハイリターンを求める企業風土であるため、イノベーティブな独自新ビジネスが生まれやすく、米国企業間のROAにはばらつきが生じていると考えられます。即ち、横並び志向がイノベーションへの消極志向を産み、利幅の薄いレッドオーシャンのビジネスに偏る傾向となっている日本企業の現状と、イノベーション無かりせば存続無しと、ブルーオーシャンでの寡占を求めてリスクをテイクする米国企業との収益性の差が明白になっています。

モノ余りと多様化の時代に、本気でイノベーションを狙い、新しい顧客価値を提供しなければ、企業は持続的成長や高いROAを得られないのです。イノベーションとは、新しい顧客価値を創出、或いは価値を再定義することで社会的に大きな変化をもたらす「新機軸」「新結合」という概念です。イノベーションの創出には不確実性との闘いが待っています。

日本企業には、連続的な製品進化の方が確実でリスクが低い、との思いが未だにあるようです。連続的な製品進化のみを追い求めるリスクの大きさに気付いていないとも言えます。確かに今後も差別化競争に勝つ強さは大切で必要ですが、新しい顧客価値の創造と両方が必要です。市場のパラダイムチェンジを認識し、日本経済の過去の成功体験から脱皮するマインドセットが必要となっています。

今後のデジタル新経済と日本企業のマインドセット

日本企業だけが取り残された主な理由として「デジタルトランスフォーメーションの出遅れ」と「イノベーションへの消極志向」の二つを挙げました。実はこの二つは中心的概念が重複し、強く相乗します。デジタルトランスフォーメーションの出遅れがイノベーション創出を阻害している側面と、イノベーションへの消極志向がデジタルトランスフォーメーションを遅延させている側面の両側面が有るということです。

従って端的に言えば、デジタルトランスフォーメーションのコア中のコアの目的として、デジタルイノベーション、即ち、デジタルを活用して、新しい顧客価値、新しいビジネス(モデル)を創出できる様に日本企業がなることが、将来に向けた復活の処方箋ということです。

過去20年のインターネット普及やデジタル製品の普及は、デジタル変革時代への助走期間に過ぎません。単にアナログをデジタルに変え、インフラを整え、或いは単に自動化する時代から、デジタルを活用してビジネスを創造する時代に代わって来ています。

ネットワーク/モバイル/クラウド/センサー/AI/5Gといったデジタル技術の進化により、あらゆるモノのコネクティビティがReady状態となった今後は、第四次産業革命(デジタル革命)と言われる時代が、急速且つ本格的に展開されます。従来のウェブ・データから、リアル・データの活用(IoT)に主役が代わり、サイバーフィジカルシステム、データドリブンエコノミー(含プラットホームビジネス)等のデジタル新経済が急加速します。

デジタルイノベーションの時代です。自社がデジタルイノベーションの創出に出遅れれば、ある日突然他社のデジタルディスラブションによって一気に市場を失い、或いはデータ植民地化されます。

一部の予想では、2025年にはフォーチュン500企業の40%が入れ替り、GDPの25%がデジタル新経済に換わるといわれているようです。日本企業のデジタルトランスフォーメーションの出遅れ、即ちデジタルイノベーション創出の出遅れは、これまでの日本経済の停滞以上に、これからの急速な凋落が深刻に懸念されるのです。

イノベーションには2種類あります。旧来からの科学技術革新によるイノベーションと、それ以外、例えばデジタルイノベーション(ICTコネクティビティを活用したビジネスモデル変革やデータビジネス)です。そして、最近のデジタル経済の台頭は、主に後者が主流と言っても過言ではありません。

日本の製造業は、前者、科学技術革新によるイノベーションへの志向が強い傾向が有ります。この点は、日本のお家芸、モノ作りの覇者として、更に加速されるべき事柄です。前者の重要性に今後も変化はありません。しかし、後者、デジタルイノベーション的アプローチが、残念ながら欧米に比べて明らかに弱いと言えます。そして、後者は前者と兼ねることが出来るのです(逆はありません)。日本企業、特に製造業は、技術の追求だけでなく、同時に顧客価値中心主義で新しい顧客価値やビジネスモデルの創出も追求する必要があります。そうしないと、技術で勝ってビジネスで負けるパターンから逃れられません。

デジタルイノベーションへのマインドセットがどうしても急務で、(日本政府が言うように)そろそろラストチャンスだと思います。日本企業が一旦気付けば、一気に新しい日本の時代を創ることが可能だと強く信じています。

関連コラム

ページTOPへ戻る