DXは内製化で実施するべきか 成功事例から学ぶ企業改革

システム

2023年05月08日(月)掲載

キーワード:

DXを進めるにあたり、「内製化と外部委託どちらを選ぶべきか」や「どこまでを内製化すべきか」と頭を悩ませている経営者や企業担当者は多いのではないでしょうか。 DXの内製化は、外注費の削減になるだけでなく、従業員の育成につながるなど多くのメリットがあります 。

本コラムでは、DX内製化のメリットだけでなく、課題や成功のポイント、具体的な成功事例についてまとめています。

DX内製化の概要

dx内製化

ビジネスにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を駆使して業務プロセスの再編やビジネスモデルの変革をおこない、競争上の優位性を得ることを指します 。

そのうえでDX内製化は、DXを実現するためのシステム開発や外注していた業務を社内のリソースで対応することです。

ただしDXを内製化するためには、システム開発に向けてエンジニアを採用・育成する必要があるほか、社内で業務品質を担保しなければなりません。そのため、従来のシステム開発は、ITベンダー企業に依頼するのが一般的でした。

なぜ企業が内製化を進める必要があるのか

DXを内製化する意義は、外部委託のデメリットを考えると見えてきます。

  • 外注費がかかる
  • ノウハウが自社に蓄積されない
  • 推進体制を自社でコントロールできない

DXを内製化すれば、外注費が削減できるだけでなく、従業員のDXリテラシー向上にもつながります。また、DXのノウハウが企業に蓄積されることは、企業の大きな資産になります。

さらに、市場のニーズにも素早く対応できるようになるため、競合他社に後れを取らずに済むケースも出るはずです。

近年の技術革新や社会情勢の著しい変化も鑑みると、DX内製化の重要性は高いといえます。

DX内製化のメリット

DX内製化には、主に3つのメリットがあります。

  • 企業文化の変革に合わせやすい
  • DXリテラシーの向上に役立つ
  • コストの削減につながる

それぞれのメリットを詳しく解説します。

企業文化の変革に合わせやすい

DX内製化は、時代の変化に対応した施策を社内で完結できるため、企業文化の変革にも合わせやすいです。外部委託の場合、社外の人材とのやり取りとなるため、変化に対する説明や理解にどうしても時間を要します。

実際に新型コロナウイルス感染拡大以降、 オンライン販売の強化やテレワークの推進など、企業はDXに関する取り組みを求められました。このとき、DXの関連業務を内製化できている企業と、外部委託に依存している企業を比べると、前者のほうが意思決定プロセスを短くできるため、スピーディに対応できるでしょう。

つまり、DX内製化に取り組めば、従来の取り組みを見直す動きのスピードが上がり、他社と差をつける要因になります。DX化が今後さらに進んでいく場合、時代に合わせた取り組みができる企業が優位に立つでしょう。

DXリテラシーの向上に役立つ

DX内製化は、従業員のDXリテラシーの向上にも役立ちます。DXは企業文化の変革をもたらす重要なものであるため、 この事実を従業員が自分事としてとらえることが必要です。

DXリテラシーがないまま業務の課題を発見し、業務プロセスを改善しようとしても、システムありきの解決策を考えてしまうなど、本質的な課題解決にならない可能性も出てくるでしょう。

また、DXに対する共通認識がないと従業員同士の考えにもズレが生じやすく、改善に動いても想定していた結果にならないリスクが高まります。

このようなリスクに対して、DX内製化が進んでいる組織のほうが、DXが共通言語化しやすく、コミュニケーションエラーが起きにくくなるでしょう。

コストの削減につながる

DX内製化は、コストの削減にもつながります。

特にシステム領域は、外部ベンダーに開発・運用を委託するのが一般的でしたが、「社内の従業員がシステムの仕様を知らない」「要件や要望がベンダーの環境に依存してしまう」などが起こり、取引が長期化するほど既存のベンダーから抜け出せなくなる問題が起きていました。

これはベンダーロックインと呼ばれ、DX推進の大きな障害といわれています。ベンダーロックインに陥っている企業は、どうしてもベンダーとの交渉が不利になり、コストの増大につながる傾向にあるのです。

このような事態を避けるためにも、自社でDX内製化を進めてノウハウを蓄積することで、社内の対応力を高めていくことが重要です。

DX内製化における課題

さまざまなメリットがあるDX内製化ですが、以下のような課題もあります。

  • 採用担当者が適切な人材を定義できない
  • 社内メンバー への依頼による甘えが出る

採用担当者が適切な人材を定義できない

DX内製化に向けて優秀な人材を採用しようとしても、担当者側のDX人材への理解が浅いとミスマッチを引き起こしてしまいます。

特にDXに精通した人材は需要も高く、採用は困難です。そのため、自社で優秀な人材を採用するには、まず採用担当者がDXの理解を深めることが大切です。

「企業の課題解決に必要なDXスキルは何か?」「採用は自社の事業フェーズにおいて適切か?」などを適切に判断できる採用担当者を用意することは、企業によっては大きな課題となるでしょう。

社内メンバーへの依頼による甘えが出る

DX内製化を進めていくと、社内メンバーへの依頼による甘えが出る可能性があります。外部委託の場合、契約時点で発注内容が明確になり、 外注が担当する範囲は決められています。

しかし内製化の場合は、多少無理な依頼内容であっても断りづらく、対応せざるを得ない状況になりがちです。また、外注のように明確に発注内容が定まっていないため、DXの担当部署がおこなうべき業務範囲が曖昧になることも考えられます 。

このような事態を放置すると、DXを担当する部署に業務が集中してしまい不満が出るほか、その他の業務が遅延しトラブルに発展する恐れもあります。

企業側はDX内製化を推進させるだけでなく、各部署の担当箇所を明確にし、必要な社内人員を整えて業務の負担にならないように努めなければいけません。

DX内製化の成功事例

ここからは実際に、DX内製化によって成功した事例を2つ紹介します。

  • 大浴場の混雑状況を可視化するサービス導入/A社
  • 店舗の不便を解消するアプリを開発/B社

大浴場の混雑状況を可視化するサービス導入/A社

ホテルなどを運営するA社は、大浴場の混雑状況を可視化するサービスを短期間で実現しました。

本サービスを作ることになった背景には、新型コロナウイルスの感染拡大があります。顧客が安心して施設を利用するために、密閉・密集・密接の3密を避けるシステムの開発が必要だったのです。宿泊施設のなかで特に密になりやすいエリアである大浴場の混雑状況を可視化すれば、顧客が安心して施設を利用できるようになります。

通常半年から1年ほどはかかるこのシステムをわずか数週間でつくることができた理由について、同社は内製化を挙げています。内製化によって開発スピードが大きく加速し、いち早く時代に合わせたサービスを提供できた内製化の成功事例といえます。

店舗の不便を解消するアプリを開発/B社

ホームセンターチェーンのB社は、デジタル技術を活かしてお客様の買い物体験をよりよいものに変化させるべくDXの内製化を進めています。

同社は、店舗で日々接客をする従業員や顧客の不便さを解消するためにアプリを開発しました。このアプリ開発の内製において、同社が大切にしたマインドが、エンジニアとの共通言語での対話です。

エンジニアは開発目線での技術的なソリューションを提供できる反面、店舗の声が届きにくく、顧客のニーズを十分に把握できないという課題がありました。一方で、店舗メンバーはエンジニアが扱う専門用語を理解できず、コミュニケーションの壁が生まれていたのです。

この課題を解決するために、同社は専門用語を使わず、双方が理解できる共通の言語でのコミュニケーションを徹底しました。これにより、店舗の課題と技術的なソリューションが上手く結びつくようになり、アプリ開発が順調に進んだのです。

DX内製化を成功させる方法

DX内製化を成功させるには、いくつか押さえるべきポイントがあります。

  • 事前準備を徹底する
  • 目的を明確化する
  • DX人材の確保・育成をする
  • 進捗状況を社内全体で共有する
  • DX内製化の失敗事例を参考にする

それぞれの方法を詳しく解説します。

事前準備を徹底する

DX内製化を成功させるには、入念な事前準備が重要です。

まず、これまでアウトソーシングに頼っていた部分を減らしましょう。社内でヒアリングをおこない、現在の業務のアウトソーシング率を把握し、可能な部分からアウトソーシングの割合を減らしていくことが大切です。

また、アウトソーシングを減らすことで自社の負担は大きくなるため、DX内製化を担当する人材の業務量を調整することも必要です。

次に重要なことは、開発環境の整備です。開発環境の整備では、システム開発のためのソフトや設備の導入、仕様やルールの決定などをおこないます。

エンジニアの採用やSaaS、ノーコード開発の導入なども検討しましょう。開発環境を整えていく過程は時間を要しますが、開発までの経緯を明らかにできるため、マニュアル作成やトラブルが発生してもノウハウとして活用できます。

品質管理体制の整備も忘れてはいけません。自社で開発・運用するシステムは、不具合やセキュリティ不備もすべて自社の責任になるため、テストや品質管理も社内でおこないます。

自社システムの開発環境を整えたらチェック専任者をおき、チェックフローの策定のほか、チェック項目や品質チェックのスケジュールを決めるなどシステムの管理体制を作ります。細かな部分までルールを決めておくことで、チェック体制が維持しやすくなるでしょう。

目的を明確化する

DX内製化を実施する目的を明確にしていないと方向性が定まらず、手段と目的が入れ替わっても気づけない可能性があります。

また、プロジェクトを進めていくなかで、従業員のモチベーション低下を招くリスクもあるため、目的の明確化は初期の段階でおこないましょう。ゴールを設定する際は具体的な数値を用いることで進捗状況もわかりやすくなり、目的を達成するまでの道筋を把握しやすくなります。

DX人材の確保・育成をする

DX人材の確保と育成も、DX内製化を実現するうえで重要です。

DXを採用している企業が増えているなか、デジタル技術に精通している人材やDX内製化の基礎となる環境を構築できる人材は貴重で、多くの企業が求めています。

採用の段階では、人材の見極めに力を入れなければなりません。さらに、採用に関する予算も確保する必要があります。場合によってはスキル、知識を持ったDX人材を採用するため、外部への委託も想定するとよいでしょう。

DX人材を確保することで、更なる人材の育成やDXに関する業務効率の改善なども期待できます。

進捗状況を社内全体で共有する

DX内製化を進める際は、進捗状況を社内全体で共有することを心がけましょう。すべての従業員に共有がされていないままDX内製化を推進しても、プロジェクトに参加していないメンバーが戸惑ってしまい、トラブルの原因につながります。

また、内製化の進行により、社内全体の業務環境が変化することもあります。DX内製化にあたっては、携わるメンバーだけでなく経営層も含めて状況把握が必要です。進捗状況を社内全体に、こまめに共有しましょう。

DX内製化の失敗事例を参考にする

DX内製化を検討している企業は、失敗事例から学ぶことでDX内製化を成功させる可能性が上がります。以下で失敗事例を詳しく見ていきましょう。

品質(機能・UI/UX)に関する失敗事例

ゼロからDX内製化を進めた結果、品質が不十分となってしまった失敗事例です。

品質が不十分となった主な理由は、プロジェクトのメンバーが十分なスキルを持っていないままDX内製化を進め、品質の担保にまで手が回らなかったためです。

システムの開発者も途中から不在になり、 品質の重要なポイントであるUX/UIまで手が回りませんでした。結果として、でき上がったシステムは、インストール設定が難しい、画面レイアウトが使いにくいなどの問題がありました。

DX内製化の実現には、担当者がシステム開発に精通していることが不可欠です。

はじめからすべてを自社でおこなうのではなく、ベンダー企業と連携を取ってスキルを習得するのも一つの方法です。また、内製化をサポートするシステムを取り扱っているメーカーを利用するのもよいでしょう。

アジリティに関する失敗事例

ある企業では従来のウォーターフォール型の開発にこだわった結果、DX内製化に失敗しました。ウォーターフォール型は、順序立てて開発をすすめる方式のため、頻繁に要件の変更や機能追加が起こる開発には不向きです。

変化がめまぐるしい近年においてDX内製化を行なう場合、従来のウォーターフォール型の開発が最適解とは限りません。

やり慣れた方式に固執するのではなく、柔軟なDX内製化の体制を作ることが重要とわかる事例といえます。

まとめ

DX 内製化にはメリットとデメリットがあり、実施するべきかどうかは企業の環境によって変わります。

DX内製化によるメリットは、大きなものです。上手に進めることで企業文化の変革に合わせられるほか、従業員のDXリテラシーの向上やコストの削減にもつながります。

ただし、DX内製化の実現には、社内全体でシステムを把握する必要があり、DX人材の確保も必要です。そのため、導入のハードルが高いと感じる企業も少なくありません。

DX内製化は、多くの工程と課題をクリアする必要がありますが、業務効率化や社内ノウハウの向上、そして情勢の変化に柔軟かつ迅速に対応できる企業となれる可能性を秘めています。

ぜひ、本コラムを参考に自社のDX内製化を検討してください。

関連コラム

ページTOPへ戻る