デジタル時代の営業戦略を考える~事例から見るマーケティング戦略、改革とは?~

営業

2020年10月13日(火)掲載

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コロナウイルス拡大につき、デジタルでの営業を行う企業が多くなってきた。オンラインありきの世界観で、どのように企業をクロージングし、成約まで繋げていくことができるのか、その戦略や方法を説明していく。

オンラインが当たり前の世界観へのシフト

昨今のコロナ禍で起こったビジネス観点における変化の中で、最も身近なトピックとして挙げられるのが、デジタル化であろう。これまでにもAI、SNSやECなどのIT活用、オンライン技術の進化については、情報量の激増、新たな生活様式の出現という形で既に身近に起こっていた変化ではあるが、新型コロナウイルスによる突然の災禍によって、この流れが圧倒的に加速したことは改めて述べるまでも無いだろう。

特に、企業はもとより、教育現場や行政でもオンライン会議アプリケーションが普及し、在宅勤務や在宅学習が一気に進み、これまでの当たり前が通用しない事象が目の前で繰り広げられる時代となった
「デジタル時代の営業戦略」において、この変化がもたらした対面での会話の激減は、今後を見据え徹底的に考察すべき課題であると言えよう。

総務省のHPに掲載されている国際的なデジタルデータ量予測では、1年間で扱われる総データ量が2020年に40ZB(ゼタバイト)と予想されていたが、この新型コロナウイルスの影響を加味すると今年の着地予測は約59ZB、即ち1.5倍となる見込みの様だ。

アナログ的世界観(人と人の対面での会話、繋がりを基本にする営業行為)から、オンラインが当たり前の世界観へシフトが加速する時代を迎えたといってよいであろう。

この変化をどのように理解し、営業戦略をどのように作り替え、対応する必要があるのであろうか
読者の皆さまと一緒に考察してみたい。

POINT

・国際的なデジタルデータ量予測では、2020年の着地予測は約59ZB、即ち1.5倍となる見込みであり、世界中でオンライン化していることがわかる。

勝ち残りのための3つのキーポイント

オンラインベースの時代への対応というと、目新しいことをするようだが、本質的にはそう目新しいことではないと考える。従来から提唱されてきた「あるべき営業戦略」を明確に定義し、可視化することで新たな環境への適応が可能になるのである。
しかし、“言うは易く 行うは難し”。
具体的に、どのように進めていくべきか、紐解いていく。

目先の数値目標に対応する営業戦略に忙しく、次世代の営業戦略を明確にすることに十分な力を注げていないという組織は多い。
この次世代の営業戦略に欠かせないのが、顧客のインサイトの明確化、そして遅滞なく実践される仮説検証である。

普段からやっておくべき環境分析、事業戦略と営業戦略の連動と合わせて行うべき、営業戦略のキーポイントは3つある。

1. 顧客インサイトを徹底的に明確化する
2. データを統合して考える
3. 高頻度、高速な仮説検証を行う

デジタル時代の勝ち残りは、この3つをどれだけ追求できるかに左右されると筆者は考えている。

1. 顧客インサイトを明確化する

会えることが半ば当然という世界から、会うことすら明確な理由が必要となる世界へのシフト、それがデジタルベースで求められる営業である。
本題と直接的な関係は無いが、対面なら当たり前に起こるであろう、人間関係を構築するために行う重要な行為としての雑談や会食、ご挨拶が常套手段として使えない世界である。

言い換えれば、相手に対話する必要性を最初から明確に持つことが最重要事項となる。
そのためには、目的を明確にし、何のためのミーティングなのか、この会議によってどのようなメリットがあるのかを顧客に提示した上で、オンライン会議を申し込むことが常識となる。

これを実行するためには、顧客(さらに一歩進んで顧客の顧客、消費者も含む)のインサイト(=裏に潜んだ欲求や、それと気付かずに抱いているニーズ)を非常に明確に理解しなくてはならない。

顧客のインサイトを掴むというのは、かなり「深い」行為である。具体的に5つの問いを立ててみるが、あなたの顧客について、この5つに即答できるだろうか。

1. 顧客が成し遂げようとしている進化は何か?顧客の戦略を理解しているか?
2. 顧客が苦心している状況は何か?顧客の課題が見えているか?
3. 進化を成し遂げるのを阻む障害物は何か?顧客戦略の阻害要因は?
4. 不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動を取っているものは無いか?顧客のありたい姿とそのギャップは何か?
5. 顧客にとって、より良い解決策をもたらす品質の定義、その解決のために引き換えにしても良いと思うものは何か?顧客の優先度を理解しているか?over qualityになっていないか?

上記の5つの問いは、今年1月23日に逝去されたハーバード・ビジネススクールのクリステンセン教授が提唱された、JOB理論をベースに筆者がアレンジしたものである。

デジタル時代の営業戦略では、顧客インサイトに基づいた顧客にとっての価値を明確にし、初回のミーティング以前に最初のコンタクトの時点で明確にメリットを示す投げかけや提案がなければ、ミーティング自体がセットされない可能性が高い世界となるのである。

2. データを統合して考える

データ戦略において、これまで重要とされてきた考え方にATLとBTLがある。ご存知の方も多いと思うが、簡単におさらいさせていただく。

ATL(Above the line)はご存知の通り、マスメディア4媒体(テレビ、新聞、ラジオ、雑誌)を使ったプロモーションで、近年はウェブ広告やウェブマーケティングをいれることが多く、その取り扱いは加速している

一方のBTL(Bottom the line)は、イベント、ダイレクトメール、店頭POPなどマスメディア4媒体以外の販促活動を中心とした営業施策である。

俗に空中爆撃(=ATL)と白兵戦(=BTL)という表現で説明され、概念的な理解の助けになるだろう。

デジタルビジネスの世界が進むと、この空中戦と白兵戦という垣根がなくなり、両方を統合することが重要な鍵になってくる。
そのワードとしてTTL(=Through the line)即ち、両者を繋ぎ、ウェブ広告、ウェブマーケティングを空中戦としてだけでなく、個別の最適化のための白兵戦としての活用を益々加速させる必要が生じるのである。

意図的にトップダウンとボトムアップを、行きつ戻りつしながら、最適化を図ることが極めて重要となる世界だ。
マスを扱うデータと絞り込まれたデータをデジタルで繋ぎ、統合したデータ戦略の実践を行うことで、きめ細やかな顧客インサイトの分析を実現する。

しかし、これもそれぞれのデータを扱う部署が異なる、媒体が異なる、もしくは別の戦略として実践されていたりするケースが多く、そもそも両者が管理しているデータ上、同一の顧客を突き止め、アプローチを統一すること自体が難しい。融合させるには基本戦略から明確に定義され、データの統合が折り込まれなくては実現することは難しいのである
即ち、部署の垣根だけでなく、データの垣根を取っ払う必要があるのである。

3. 高頻度、高速な仮説検証

PDCA(Plan Do Check Action)という概念はかなり浸透し、使い古されてきた感がある。
しかし、多くの場合、PD(計画と実行)を繰り返し行い、CA(検証して次につなげる)がやや軽んじられてきたのではないだろうか。

実は仮説検証を行うのは、言うほど簡単ではなく、特に日本のようなハイコンテクスト文化(共有時間、共有体験を重んじ、ツーと言えばカーの世界観がある文化)で仮説検証を実践するには、3つのハードルが存在する。

1:構造的なハードル
上記で記載したように、明確な言葉の定義がなくても、意図を察することが求められ、話し手が多少拙い表現であっても、聴き手が理解するような環境を良しとする文化では、目的や戦略などが明確でなくてもビジネスが成立しうる。仮説が明確でなくても、暗黙知として実践が可能な範囲があるのである。

ハイコンテクスト文化では会うこと自体が重要であり、それがビジネス的にも合致していたため成立してきた。しかし、デジタル時代では、それが難しい状況となってくる。

2:技術的なハードル
そもそも戦略とは、確度の差こそあれ仮説であり、検証してはじめて有効性が確認されるものである。

しかし、多くの場合戦略をブレークダウンして、個々のアクションプランに落とし込んだら、あとはその実践度合いだけをチェックする。個別のKPI(Key Performance Indicator)のモニタリングが即ち検証作業となってしまっているのである。

これでは、戦略全体の検証にはならず、個別活動の度合いの確認になってしまう。

戦略全体が仮説であることから、what ifのバリエーションを持ち、それを動的に検証する視点で構造そのものを検証する必要があるにも関わらず、その視点が活用されていない。
検証作業を戦略的、構造的に行うテクニックが不足しているのである。

3:役割行動におけるハードル
これまで、課題のある組織で検証をさせていただくと、振り返りという行為そのものが軽んじられる傾向が見受けられたように思う。
一度策定された戦略や計画について、その信憑性を常に検証しようとする行動が定着していないのだ。

日本人は議論やディベートが苦手と言われる。
発した言葉が人についてしまい、客観性が求められないことが多く、上から落ちて来た考え方や戦略に疑問や異論を持つことが習慣として定着していないことが理由の1つではないだろうか。

加えて、組織内では、検証する役割が明確にされていないことが多い
計画を立てる役割と、実践する役割が事実上分断されており、且つ検証する役割が不明確であると、仮説検証を阻む傾向が高いと思われる。

戦略は俗人的な行為ではなく、関わる人材全てがコミットして初めて効果が最大化する。
筆者は以前、英国海兵隊のOBと仕事をした経験があるが、彼らは、戦略策定そのものより、如何に共有するかにカロリーを使っていた。
そのようにすることで、戦略自体が「自分ごと」となる。

上記3つのハードルを乗り越え、高速、高頻度の仮説検証を実施する上で、このデジタル時代には技術的にアドバンテージが存在する

これまでは、やりたくてもデータがない、ツールがない、方法がわからないなどの壁が存在した。
しかし、デジタル時代はそのほとんどが克服可能な時代である。

実践し即振り返りを繰り返すことで、事実から得られたデータで仮説検証が出来る。
それを可能な限り高頻度で実施することがデジタル時代の肝である。

POINT

・営業戦略のキーポイントは、
1. 顧客インサイトを徹底的に明確化する
2. データを統合して考える
3. 高頻度、高速な仮説検証を行う、の以上3点だと言える。

まとめ

デジタル時代の営業戦略について3つのキーポイントをご紹介してきたが、環境やテクノロジーは整ってきている時代だとも言える。
あとは、クリエイティビティという人間の考える力で、ツールを使いこなしていきたい。また、時には新しい視点として、社外視点・経験者視点を取り入れることも重要である。デジタル時代、テクノロジーの進化はめまぐるしく、データを活用するノウハウや手法も日々変化をしていく。そのような中で、いつまでも自社内で発見と開発を繰り返すのではなく、時には他社の視点を取り入れ、スピードアップした成長を得ることも非常に重要である。もし、デジタル化の部分で不安を感じる企業があるならば、ぜひ外部視点を取り入れる選択肢を視野に入れてみて欲しい。

執筆者R.K氏

大手総合電機会社にてシステム開発。その後、外資系コンサルティング会社の3社にて戦略、組織・人事のコンサルティングをリードした後独立。英国海兵隊OBとリーダーシップ開発コンサルの日本立上げを行う。現在は多様性の最大化、不確実性の時代を戦う組織の潜在能力の最大化を実現するサービス提供を行う。

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