これからのカスタマージャーニーの捉え方、マップの作り方やペルソナ設計

新規事業

2020年09月23日(水)掲載

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「カスタマージャーニーマップ」とは?このツールは万能ではない

カスタマージャーニーとは

昨今よく使われるようになってきたカスタマージャーニーという言葉ですが、この語句は何を指すのでしょうか。答えは、ペルソナやターゲットの動きを期間ごとにわけ、それをストーリー立てしたものになります。ジャーニーというのは「旅」を示します。顧客の行動や感情の旅だと認識しましょう。

カスタマージャーニーとペルソナの違い

カスタマージャーニーをペルソナと同義の意味で使う例が見受けれますが、カスタマージャーニーは先述したように、「顧客の旅」であるわけです。このため、主語となるペルソナの動きであることを認識してください。ペルソナが歩むであろうシナリオやストーリーを考え、それらを明確化することこそがカスタマージャーニーです。

カスタマージャーニーマップに関して

カスタマージャーニーの動向をまとめたものがカスタマージャーニーマップになります。カスタマージャーニーマップは戦略策定に使える便利なツールです。ここで忘れてはいけないのは、ツールである以上「使いどころ」があるということです
野菜を切るのに金槌は使えませんし、近所のスーパーに買い物へ出かけるのに飛行機に乗る必要はありません。
「カスタマージャーニーマップをうまく使いこなせなかった」ことの原因は、「使いどころを間違えていた」であることが少なくありません。

POINT

・カスタマージャーニーは顧客の旅である。
・カスタマージャーニーマップは戦略策定に使えるツールで、万能ではなく、カスタマージャーニーマップの使い所を間違わないようにすることが大切。

カスタマージャーニーマップの使い所や利用のメリット

カスタマージャーニーマップは、仮説を立案するのに適したツールです。
例えば、新規サービスを始める場合や、マーケティングファネルの中でよくわかっていないレイヤーを攻める際に活用できます。

俯瞰的に見た戦略立案が可能に

新サービスを始める場合、顧客はどのような課題を持っていて、それを解決するためにはどのような代替手段を使っているのか、そして、その状況に自分たちのサービスが関与することで、どのようなパーセプションチェンジ (態度変容) が起こり、ビヘイビアチェンジにつなげるのかを俯瞰的に考える必要があります。その際に使うカスタマージャーニーマップは新サービスにおけるマーケティング戦略の仮説です。

マーケティングファネルの中でよくわかっていないレイヤーを攻める場合について、例えばインターネットで手作りのアクセサリーを売っている場合を考えてみましょう。デジタルマーケティングに詳しい方なら、購入した顧客がどのようなワードで検索し、広告をクリックし、どのようなサイトでその製品のことを知ったのかについて分析することはできるでしょう。

しかし、顧客がそのワードで検索するに至った経緯や、購入者の友人の間でどのような評価がなされているか、また何をしている最中にその商品の情報が目に入ったのかなどは、デジタルマーケティングをしているだけではわかりません。そのような、マーケティングファネルのブラックボックスを攻略する際は、まずは仮説を立て、仮説に対してテストマーケティングを行い、KPIを測定して仮説検証を行います。そして、この一連の流れにおいて仮説づくりに使えるのが、「カスタマージャーニーマップ」です。
例えば、このような感じです。

図:筆者作成

このような想定ユーザーの課題仮説を立て、それに対する打ち手を検討して施策に落とし込んでいく、というのが一般的なカスタマージャーニーマップの使い方であると思います。

POINT

・カスタマージャーニーマップは、仮説を立てるのに適したツールで、マーケティング戦略の一環。
・KPI測定検証分析結果から、課題(仮説)を立て、それに対する打ち手を検討し、施策を練るのが一般的な方法。
・具体的には、デジタルマーケティングで把握できる状況に至るまでの前段階の仮説を立て、顧客の行動の一連の流れをKPI測定検証する。一連の流れは、「検討前」→「情報収集/検討」→「アクション」→「体験後」で構成される。
・一連の流れの各段階で、「タッチポイント」「状況/行動」「思考/感情」「課題」の分析を行う。

間違ったカスタマージャーニーマップの使い方

それでは、カスタマージャーニーマップを使ってはいけない、または使う必要がないのはどのようなケースでしょうか。

1.すでに購買実績のあるビジネス
2.ロングテールなビジネス

よくある失敗としては上記の2つではないかと思います。
それぞれ解説していきましょう。

1. すでに購買実績のあるビジネス

すでにある程度の規模の購買実績がある場合は、カスタマージャーニーマップではなく、セールスパイプライン (マーケティングパイプライン) を使います。
セールスパイプラインは、仮説であるカスタマージャーニーマップの定量的な裏付けとなるものです。

例えば先程の例で、新サービスとしてこのようなソリューション仮説を立てたとしましょう。

図:筆者作成

この「様々なカメラを試しながら、対面で撮影方法を教えてくれるサポート付きカメラのサブスクリプション (以下、カメラのサブスク)」を開発してテストマーケティングしてみたところ、100人の応募があり、実際にトライアルが始まったとします。

この段階で仮説としてのカスタマージャーニーは役目を終えます。100人のトライアルが始まるまでに、情報の拡散率・到達率・転換率 (CV率) ・チャネルCPA・チャネルCPOなどのKPIが取得できているはずです。

図:筆者作成

これらのKPIをタッチポイント毎にプロットし、セールスパイプラインを作り、そのあとはKPIグロースを 行っていきます。
カスタマージャーニーマップに立ち返るのは、ボトルネックとなる (歩留まりの悪い) チャネルが見つかった場合のチャネルを検討する時で、それまでは寝かせておいても構わないと私は考えています。

2. ロングテールなビジネス

カスタマージャーニーは、基本的には「1つのシナリオ」で表現されます。複数のシナリオが交錯する、あるいは分岐するとわかりづらくなるため、あまり作られません。

つまりカスタマージャーニーというツールは、基本的に「メインターゲットの導線に絞り、残りは切り捨てる」という考え方に立脚しています。切り捨てるというとネガティブなイメージを持つかもしれませんが、施策をシンプルに保ち、チームのコンセンサスを取り、ROIを測定する際にターゲットの選択と集中を行うことは大切で合理的な考え方です。最初から「あの層にも、この層にも、その層にも売りたい!」と欲張ってしまっては予算や施策が分散してしまい、成果を出すことは難しいでしょう (もちろん、テストを目的として分散させるなど、合理的な目的がある場合は別です)。

実際のビジネスが1つのシナリオだけで完結することはまずありません。特に、EC業界の某大手企業のような多数の商品点数を扱っているロングテールを無視できないビジネスでは、カスタマージャーニーマップのようなマジョリティをターゲットにするアプローチは効率が悪いです。

極端な例を挙げると、 EC業界の某大手企業自身が「赤ちゃん用のおしりふきを買うユーザーのカスタマージャーニーマップ」「七味唐辛子を買うユーザーのカスタマージャーニーマップ」「(書籍の) 葉隠入門を買うユーザーのカスタマージャーニーマップ」のように商材毎にカスタマージャーニーを考えることはないでしょう。

自動車や、ナショナル商材のように、少品種・高マーケティングコストの商材と相性がよいです。このあたりは切り口によって変わってくるのですが、基本的にカスタマージャーニーマップは「メインシナリオが太い」場合の仮説づくりとうまくフィットすると覚えておいてください

POINT

既に購買実績のあるビジネスとロングテールのビジネスには、カスタマージャーニーを使用する必要がない。
既に購買実績のあるビジネスには、カスタマージャーニーマップより「セールスパイプライン」を使用する方が効果的。
・少品種・高マーケティングコストの商材を対象にした方が良いので、ロングテールのビジネスとは相性が悪い。
・カスタマージャーニーマップは、マジョリティをターゲットにアプローチすることが前提となっている。

これからのカスタマージャーニーマップの捉え方

ここまで2つの失敗例を上げましたが、使い方を間違えなければ俯瞰的な仮説づくりのツールとしてカスタマージャーニーマップは便利なものであるという事実は変わりません。

最後に、ユーザー行動が多様化する時代においてカスタマージャーニーマップをどのように使えばよいかについて、私自身の考え方をお話ししておきたいと思います。

効果的な「切り口」を見つける客観視の能力が重要に

先程、「ロングテールなサービスではカスタマージャーニーマップは使いづらい」と述べましたが、EC業界の大手企業でも「ECユーザー全体」をターゲットとして考えればカスタマージャーニーマップを作ることは可能です。無限の商材を扱っている新規サービスを立上げる新規事業のマーケティングは、究極の少品種とも言えます (無限の商材を扱っているサービスは他にないので)。

このように、同じサービスでも、切り口によってカスタマージャーニーマップを作ることは可能です。この時に重要になってくるのは切り口やターゲットの粒度を設定するセンスです。

ひとつのサービスでも、切り口を変えて見る柔軟性が大切になってきます。

デモグラフィックな切り口に囚われない

カスタマージャーニーやカスタマージャーニーと頻繁にセットで使われるペルソナの大半は、「京都在住、40代男性」のようなデモグラフィックな切り口から始まると思います。

ところが、WEBサービスのような性別を問わない商材や、ビジョンや思想に共感する人が購入する商材など、デモグラフィックなペルソナを設定することがそもそもボトルネックになってしまうことも少なく有りません。

デジタル広告のセグメントでも、最近はAIがROASを最適化するために自動でチューニングをかけるため、人間が行うセグメントは最低限の足切り (サービス提供範囲外など) だけで、あとは行動ターゲティングに任せることが増えているのではないでしょうか。

ペルソナやカスタマージャーニーは、チームメンバーの見解を揃える効果が高いのですが、本当に性別や年齢がもっとも重要な切り口なのか、考え直すべき時代に来ていると感じます。

POINT

・視野が広く、客観的に物事を見る能力やセンスがあれば、「ターゲット」の捉え方次第で、どの事業でもカスタマージャーニーマップを作成することができる。
・「性別」「年齢」のようなデモグラフィックな切り口に囚われず、商材に適切な切り口を見つけることが、今後につながる。

まとめ

カスタマージャーニーマップは、マーケティング戦略において、有効であり、今後必要になってくる機会が多くなってくると考えます。具体的には、デジタルマーケティングでデータを得られない検討前段階からカスタマー分析を仮説として行い、KPI測定検証を経て、検証結果から課題仮説を立て、それに対する打ち手を検討し、施策を練ることです。このように実践していくことが求められていきます。
しかし、注意点として、既に購買実績があるビジネスやロングテールのビジネスに対し、デモグラフィックな切り口からカスタマージャーニーマップを作成しても効果がないことです。しかし、視野を広く持ち、客観的に物事を見る能力やセンスがあれば、「ターゲット」の捉え方を柔軟に変えて、どのビジネスでもカスタマージャーニーマップを作成することができます。ビジネスを客観視して現在の視野とは別角度からのアプローチをすることが必要なのです。

これらはなかなか難しいですが、経験豊富なプロ人材から学べば、今後社内でもできるようになっていきます。知見なしで完成度の高いマップを作成することは非常に難しいことなのです。もしご興味のある方は経営プロ人材の活用を視野に入れてみていただきたいと思います。

執筆者N.O氏

カーマンライン株式会社 代表取締役。株式会社ガリバーインターナショナルやグリー株式会社にて事業責任者を歴任。担当メディアの売上を3倍以上に伸ばすなど成果をあげた。現在は戦略コンサルとして企業の事業開発やDXの支援を行っている。

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