大手開拓は「個人の力」だけでは成し得ない。「チームと戦略」で突破するエンタープライズ攻略法

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2025年12月10日(水)掲載

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大手顧客の獲得や深耕営業に課題を抱える企業は少なくありません。複雑な組織構造や承認経路、リード獲得の難しさなど、大手顧客の獲得には一般的な営業活動では直面しない独特の障壁が存在します。そうした障壁を乗り越え、大手企業と強固な信頼関係を築くには、どのようなアプローチを取ると良いのでしょうか。N.Y.CRAFT株式会社 代表取締役社長で、企業の大手顧客獲得を数多く支援してきたプロ人材の関根 優氏にお話を伺いました。

「強みの言語化」が不十分では、大手企業の門戸は開かない

——大手顧客の獲得における、よくある課題は何でしょうか。

関根氏:大まかに分けて、営業活動を行う企業側と、その営業先である大手企業側の両方に「壁」があると考えています。まず、営業活動を行う企業側としては「自社の強みを言語化できていない」というのが大きいです。

以前、私が担当する顧客に、大手企業と継続的な取引はあるもののそれ以上に案件が拡大しないと悩んでいる企業がありました。その企業の担当者に「なぜ貴社が取引先の大手企業から選ばれていると思いますか」と尋ねたところ、困惑されたことがあります。その企業では、長年の取引がルーチン化するなかで、自社が取引先の大手企業に提供している価値が曖昧になっていたのです。

こうした問題は新規開拓の場面においてもしばしば起こります。自社の提供価値や競合他社に対する優位性などが曖昧なままでは、大手企業に“響く”提案は難しいでしょう。そのため、大手顧客の獲得を目指すのであれば、まずは自社の強みを言語化し、さらに想定されるターゲット企業にインタビューを実施するなどして、自社の強みが顧客のニーズと合致しているかを確かめることが重要です。

また、「社内連携不足」もよくある課題です。大手顧客の獲得は、フロントに立つ営業担当者が単独で実現するのは容易ではありません。営業部門に限らず、マーケティング部門や技術部門、経営層など、複数の部門が協力して初めて大手企業の門戸は開くと言えるでしょう。それにもかかわらず、提案書の作成や営業戦略を営業担当者に任せっきりにしたり、組織でアカウントを管理せずに複数の営業担当者が大手企業のさまざまな部門のメンバーに思い思いにアプローチをしたりする例が少なくありません。

大手顧客の獲得には、チームと戦略が重要です。そのため、私が企業を支援する際には、大手顧客の獲得に向けたプロジェクトチームを組成し、各メンバーの役割を明確化することを心がけています。さらに、KPIの見直しも重要です。既存の営業活動と、大手顧客の獲得に向けた営業活動では、営業担当者や各部門の果たすべき役割も異なります。そのため、「大手顧客の獲得」という大きな目標から逆算して、プロジェクトメンバーや各部門のKPI再編成にも取り組んでいます。

「組織の壁」を乗り越え、意思決定者と接触するには

——一方で、企業から見た大手企業側の「壁」は何でしょうか。

関根氏:「変化のリスクよりも現状維持を選びがち」ということだと思います。当然ながら、大手企業は中小企業に比べて組織や人員の規模が大きいため、何か新たな取り組みを行えば、その分リスクは高まります。そのため、大手企業は総じてリスクに対して後ろ向きであり、新規開拓のアプローチや既存案件の深耕営業にも慎重に対応する傾向があります。

また、「意思決定者と接触を持ちにくい」という問題もあります。大手企業は組織構造が複雑なため、意思決定者を特定することが難しく、たとえ特定できたとしても直接アプローチするのはそう容易ではありません。実際に、大手企業向けの営業活動では、意思決定者になかなか辿り着けないために取り組みが停滞し、時間やリソースばかりを取られた末に頓挫するというケースが度々あります。

——これらの問題について、どのように乗り越えればよいのでしょうか。

関根氏:どちらの課題にせよ、ポイントは「いかに意思決定者を動かすのか」にあると言えるでしょう。そこで必要となるのが、意思決定者を動かすためのマーケティング戦略です。

具体的には、「意思決定者に向けた情報発信」が有効です。たとえば、オウンドメディアで意思決定者層に有益な情報を発信して読者として惹きつけ、ダウンロードコンテンツなどを通じてリードを獲得するなどの手法が考えられます。また、自社のメディアでなくても、意思決定者層をすでに読者として獲得している外部メディアに記事を出稿してチャネルを開拓するといった手法もあるでしょう。

私が実践した例でいえば、ITソリューションの導入事例記事があります。とあるITソリューションを導入した企業の意思決定者にインタビューし、導入を決めたきっかけや要因、導入メリットなどを尋ねて記事化しました。これにより、導入企業の意思決定者がどのような観点で製品を選び、どのようなメリットを感じているのかを広く訴求することができ、他社の意思決定者が製品に興味を持つきっかけを作ることができました。

——そうした活動を展開するのは、営業担当者単独では難しそうですね。

関根氏:おっしゃる通りです。だからこそ、先ほどお話しした「チームと戦略」が重要になります。大手顧客の獲得は、スタートからゴールまで、複数のメンバーが協力して行なうことが求められます。

そもそも世の営業活動は、個人主義の傾向が強すぎるのではないでしょうか。私自身も企業を支援していて、営業担当者が「上司に営業先に同行してもらったことがない」と口にする場面に何度も出会っています。大手企業の意思決定者と接触するうえで「上位の役職者に同行してもらう」というのは有効な戦略の一つですが、実践したことがない企業が少なくありません。そのため、大手顧客の獲得に当たっては、経営者をはじめとした上位レイヤーがプロジェクト責任者として組織的な活動を推進していくかが肝になると思います。

「大きな第一歩」を踏み出すために、外部人材の活用を

——まとめとして、大手顧客の獲得はどのような手順で進めればよいでしょうか。

関根氏:私が企業の大手顧客開拓を支援する際には、以下の手順を重視しています。

1. 主要顧客の洗い出しと発注理由の仮説立案
2. 顧客へのヒアリング活動と発注理由の仮説検証
3. 主要顧客の深耕戦略立案
4. 顧客ヒアリングを基にした自社の強みの言語化
5. 強みを活かせる(事例を横展開できる)新規顧客のペルソナの設定
6. 新規ターゲットのリストアップとアプローチ
7. アプローチ結果の振り返りとブラッシュアップ(PDCA)
8. 自社の強みの強化、弱みの払拭の検討

このステップは既に大手企業と取引のある企業が、新たな案件を深耕営業したり、他社に営業活動を横展開したりする際を想定していますが、新規開拓においても基本的には同様の手順を踏みます。

重要なポイントは、この手順を可能な限りスピーディーかつ効率的に進めていくことにあると言えるでしょう。先ほども述べましたが、大手顧客の獲得は既存の営業活動と異なる点が少なくありません。そのため、未知の経験が多く、担当者が戸惑ったり、二の足を踏んだりする場面が多々あります。そうした「つまずき」に怯むことなく、チームとして活動を推進していくことが大切になるでしょう。

——大手企業への営業活動をモチベーション高く推進するには、どのような手法が有効でしょうか。

関根氏:外部人材の活用は一つの手段だと思います。大手顧客の獲得が進まない要因として、実はマインド面の問題は非常に大きいと考えられます。とりわけ「学習性無力感」の影響は見逃せません。

学習性無力感とは、停滞した環境や行動に成果が伴わない経験を繰り返すことで「どうせやっても無駄だ」という心理に囚われる状態を指します。大手顧客の獲得になかなか踏み出せない企業は、学習性無力感に陥っているケースが多いように思います。

では、どうすれば学習性無力感を打破できるかといえば、既存の習慣や文化を知らない第三者が率先して新たな取り組みに挑み、既存のメンバーたちと共に活動することが一つの方法です。そうすれば、停滞していた空気は刷新され、メンバーたちの「どうせやっても無駄だ」という諦めのマインドにも変化が生まれることが期待できます。この役割を担うのが外部人材と言えるでしょう。

「カマス理論」という実験をご存じでしょうか。空腹のカマスを放った水槽を透明な板で仕切り、板の先にカマスの餌である小魚を大量に投入します。当初、カマスは小魚を食べようとしますが、透明な板に何度も行動を阻まれるうちにおとなしくなり、遂には板の仕切りを外しても小魚を食べようとしなくなります。これも学習性無力感のモデルケースの一つですが、この実験が興味深いのはこの後です。その水槽に新たなカマスを一匹放つと、新しいカマスは勢いよく餌の小魚を食べ始め、さらにその姿を目にした、もともと水槽内にいたカマスたちも、次々と小魚を食べ始めるのです。

この実験からわかるのは、外部から新たな風を入れることの重要性です。大手顧客の獲得には長期的な取り組みが求められます。その過程で失敗やつまずきにも直面するかもしれません。そうした際に、停滞した空気を活性化し、メンバーの背中を押す役割として、外部人材を活用するのが良いのではないでしょうか。

【プロフィール】

関根 優(せきね・ゆう)
大学卒業後、総合人材サービス企業に入社し、BtoB新規開拓営業に従事。その後、国内IT企業に参画し、ITソリューションの事業立ち上げ、マーケティングなどを経験。直近に在籍したITスタートアップでは執行役員に就任し、国内外の約20名の営業メンバーをマネジメント。2021年5月、N.Y.CRAFT株式会社を設立し、代表取締役に就任。

まとめ

大手顧客の獲得は、売上の増大に加え、自社の製品やサービスの信頼性向上にも寄与します。事業拡大を目指すうえで、押さえておきたい取り組みの一つと言えるでしょう。しかし、本記事でも確認してきたとおり、その実現にはさまざまな壁が存在します。プロジェクトチームの組成やKPIの設定、インタビューの実施など、細かなノウハウが求められる場面も少なくありません。「HiPro Biz」に登録するプロ人材の豊富な知見を借りて、壮大な目標に向けた第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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