コロナショックの今こそ「営業」という組織機能から見直す
2020年05月20日(水)掲載
アフターコロナの世界は変わるが変革のスピードが早まっただけ
VALUCAの時代といわれる中、コロナショックもブラックスワンの一つであり変化適応力が求められる象徴となった出来事だと言えるでしょう。今回のコロナショックは、オンライン診療の規制緩和、政府によるハンコ承認の廃止検討やSNSを使った厚生労働省の調査連携など、デジタルトランスフォーメーション化の転換点となるでしょう。この流れは加速度的に進んでいくと誰もが認識しているかと思います。
身近な例で言えば、テレワークに伴うオンライン会議システムの浸透や飲食店のデリバリーシステムなど、今まで使用していなかったユーザーからの利用が急速に拡大しています。インターネットサービスの特性でもありますが、普及度が増えるほど、経済圏が発達してユーザーの利便性が増していくことを考えると、この流れは止まらないと言えるでしょう。
このようなオンラインサービスの利便性の向上や政府より発せられる新たな生活様式の提示により、コロナウイルス感染拡大後の状況は全く異なるルールの中で経済活動をしていく必要がありますが、環境適応を求められる現在の状況でも、リテラシーの格差が進んでいると感じます。変革期と捉え、未来に向けて事業のピポットを早々に進める、オフラインでの活動が制限されてオンラインツールにより代替えの対応をしているなど、極端にやることがなくなってしまい活動が停止している事業者や個人の方もいらっしゃると思います。この格差の広がりは今後も大きくなり、変化適応出来ないまま新しいルールに乗り遅れてしまう事業者・個人も少なくないことは大きな懸念です。
しかし、この状況を俯瞰してみると、従来は目を覆っていた不都合な真実が見えてくるチャンスだとも感じています。営業という機能単体だけでも、「お客様との連絡が取れない」「進んでいた商談が顧客都合で先延ばしとなっている」「予算目途が経たず失注となった」などで生産性が悪化している企業が大半ではないでしょうか。このような問題は程度が異なるだけで、コロナ以前にもあった問題かと思います。
しかし、従来の既存手法でも一定推移していたため、このような事象を問題と捉えておらず目をつぶっていた、もしくは「そういうものである」と前提と捉えていたことも多いはずです。アフターコロナと言わる環境化において、いつまでもこのような状況を放置することはあまりにもリスクですし、逆に言えばこのような環境だからこそ未来に向けて変化対応の舵を切るチャンスであるとも言えるでしょう。
デジタル化は手段であり、事業そのもののバリューチェーンを見直す
今回のコロナショックは、移動コストに強制的な制限が加わったことで、需要を喚起するためにクライアント向けのWEBサイトを強化する、現場にオンライン商談ツールを提供する、CRM基盤を導入するなどの代替え手段を取ろうと検討している企業も少なくないのが現状だと思います。一時的な対応も良いですが、プロセスの一部をツールに代替えしたところで問題は解決しないでしょう。新たなクライアント先の獲得、並びに既存顧客からの継続利用、セルアップを従来の手法のままで進められるとは到底思えないようであれば、手段であるツールではなく、不必要なバリューチェーンを見直すタイミングが来たということでしょう。
「売上=人数×一人当たり売上高」の前提から営業という機能を見直してみる
多くの企業では、営業要員の計画を算出する際に「売上=人数×一人当たり売上高」という考え方をしているかと思います。要員計画を試算するときの一般的な考え方ですが、この方程式から見直してみることも一つのヒントになります。「営業という機能の変数が人数である」、「組織設計そのものが既存の生産性を起点にしている」という前提が隠されています。レバレッジポイントが人数だけであり、それ以外は事業側ではコントロール出来ません。特に既存の生産性が崩れ、不確実な状況下においては、営業という機能そのものに依存することになり、事業としてコントロールすることが出来ません。学習と検証をスピーディに繰り返していくためにも着眼点を捉え直し、組織機能の前提をバリューチェーンから見直していく必要な時期が来たのではないでしょうか。
例えば、人数を起点とした考え方ではなく、「売上=社数×単価」で考えてみましょう。「社数」を目的にした際には、社数=見込み社数×商談CVR×受注CVR」に分解することが出来ます。見込み社数を獲得するためには「インバウンド」もしくは「アウトバウンド」を強化するべきでしょう。「インバウンド」を増やすためにクライアントWEBを充実させて広告を打つという発想も可能です。「アウトバウンド」では見込み顧客となり得るセグメントを学習するなどの手法もあるでしょう。商談CVRを高めていくためにWEB会議システムを用いた対応スピードの向上などを考えていくことも出来るかと思います。商談CVRを向上させるための組織機能を創ってしまうということも発想の一つです。今までのような「新規顧客を〇社獲得したい」という目標から、営業マンは何人必要なのかという考えではなく、人員コストに依存せずに生産性を拡大していくシナリオも描くことが出来るようになってきます。
改めて顧客価値を見直し、顧客体験をデザインしていく
組織機能を分解し直し突き詰めていくと、最終的には「どのお客様に、何の提供価値を」に立ち返ることになります。「自社の事業が提供している顧客価値は何か」を問い直した時に、事業に紐づくお客様との関係が長ければ長い程、このような質問をすると窮することも多いかと思いますし、経営層やメンバー層でも言葉が変わってくることすらも想定されます。そして、意外と慣性で進めてしまっている企業が多いのも実情です。市場環境の変化によって変化するものだからこそ、改めて事業として可視化してみてください。「顧客」は誰か、競合にはなく自社にしか出来ない価値は何か、自社サービスの購買要因となりえるKBFを構造化し検証指標を策定していくことで、不確実性の高い事業環境の中で、スピーディな検証と学習を進めていくことが出来るようになります。ここで大事なポイントは、ビジネスプロセス毎のシーンを定性で落とし込むこと、期待する成果を定量的に検証できるようにすること、そして、その両方とも成立させることです。この一連のサイクルをスピーディに回していけることこそが、デジタルシフトする利点であり、事業に柔軟性を生んでいく要諦になっていきます。
一番難しいことは従業員の期待する働き方も大きく変わること
提供価値とバリューチェーンに基づく組織機能を変革していく上で、従業員に期待する働き方、人事制度も含めたあり方から再構築をしていくことも大きなチャレンジです。特に欧米諸国と異なり、日本は新しい職務要件に基づき「人の入れ替え」を行うハードルが極めて高い環境です。従来のメンバーシップ型の雇用形態に基づき、「人」ありきのJOBやポストデザインを行うだけでは変革が起こせず、JOBありきの人の配置、育成、転換を「働き方の変容」とセットで進めていくことが必要です。
例えば、社内コミュニケーションの前提をオンラインベースに変革していくだけでも、特に職能的要素が強い対面コミュニケーションを前提としたプロセス評価から成果評価への切り替えが必要になります。また、マネジメントレイヤー層への職務期待は、メンバーの支援ではなく戦略設計やMBO設定へ、メンバーに対しても、より自主的に成果創出行動が出来るようなオンボーディングや客観的指標を用いた改善行動を促していく必要性が出てきます。この急激な環境変化への適応を行っていく際の「選択と集中」に伴う意思決定はコンサルティングなどのアウトサイドからだけでは成立せず、インサイドでの葛藤の中で決めていくしかありません。
恐らく、変化対応をしていくことを好ましくとらえない関係者も存在するかと思います。失敗の本質にもありますが、同調圧力により変化対応が中途半端になってしまうことは良くありません。「トップダウン」でのコミットメントや小さなトライにより実績を積み、舵を切るタイミングを見計らうということも必要になってくるでしょう。変化の誘引の仕方はそれぞれありますが、舵を切るリーダーシップが求められる環境であることは間違いないでしょう。
ゲームチェンジは今がチャンス
時代を振り返れば、リーマンショック後にGAFAの台頭や、経済が一度シュリンクして再生していく時代の変遷を見ても、この変革期により業界内のプレイヤーは変わることは歴史を見れば明らかです。ゲームのルールがデジタル化により大きく変わる中、慣性の力により変革出来なったことも有事にはチャレンジしやすくなります。今こそ、覆い隠していた不都合な真実に目を向けて、アフターコロナ時代をチャンスとして変えられるかが今問われていると私は考えています。
執筆者T.T氏
東京理科大学卒業後、人材業界の大手会社に入社。
大手・中小企業の人材要件策定~広報ブランディングを多数実施。
首都圏・地方拠点の責任者を経験し、戦略策定並びに営業組織のリストラクチャリング(再構築)後、「人材マネジメントの変容による生産性向上」をテーマに活動。