コーポレートガバナンスとは?定義や目的、強化する施策をわかりやすく解説

法務・ガバナンス

2025年10月07日(火)掲載

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コーポレートガバナンスとは、企業が透明性や公正性を保ちながら、迅速かつ適切な意思決定を行うための仕組みです。

近年では、企業の不祥事の相次ぐ発生や、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大といった背景からコーポレートガバナンスの重要性が一層高まっており、企業が持続的に成長し社会的信頼を得るうえで欠かせない要素となっています。

本記事では、コーポレートガバナンスの概要から、内部統制やコンプライアンスとの違い、企業価値を高めるための具体的な取り組みをわかりやすく解説します。

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コーポレートガバナンスとは

コーポレートガバナンスとは、企業が株主や従業員、取引先などの利害関係者(ステークホルダー)に配慮しながら、健全で透明な経営を行うための仕組みです。経営をチェック・監査する体制を整えることで、不正の防止や企業価値の向上を目指します。

近年、企業の経営環境は複雑化し、説明責任や倫理的な行動がこれまで以上に求められるようになっています。こうした背景のもと、企業が持続的な成長を実現していくためには、適切なガバナンス体制の構築が欠かせません。

コーポレートガバナンスの強化は単なる経営管理の手法にとどまらず、投資家からの信頼獲得や企業ブランドの向上にもつながります。

コーポレートガバナンスと内部統制の違い

コーポレートガバナンスと混同されやすい概念に「内部統制」があります。どちらも企業経営に関わる重要な仕組みですが、それぞれ担う役割や目的が異なります。

コーポレートガバナンスは、経営陣が適切に意思決定を行い、企業経営における健全性・効率性・透明性を確保するための枠組みです。例えば、社外取締役の設置や取締役会での監督体制、株主の意見を反映する仕組みなどが含まれ、企業の方向性や経営判断の質を高める役割を担っています。近年では、不正防止などの「守り」だけでなく、企業価値の向上や持続的成長を促す「攻め」の側面も重視されています。

一方、内部統制は、日々の業務や会計処理が適切に行われるように管理する仕組みで、不正やミス、業務リスクを防ぐことを目的としています。業務フローの整備やチェック体制の構築、ITツールの活用などにより、現場レベルでのルール遵守や業務の正確性を確保する役割があります。

つまり、内部統制はコーポレートガバナンスを実現するための具体的な手段の一つであり、ガバナンス体制の一部を構成しているといえます。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの違い

「コンプライアンス」もコーポレートガバナンスと密接に関係していますが、異なる視点の取り組みです。

コーポレートガバナンスは、企業が持続的に成長していくために、経営全体のあり方を整える仕組みです。経営の監視や意思決定の透明性、説明責任の確保などを通じて、企業価値の向上や社会からの信頼確保を目指します。

一方、コンプライアンスは、企業が法令や社内ルール、社会的規範をきちんと守ることを指します。法令違反や不正行為を防ぐことを重視し、企業の信頼を損なわないようにすることが目的です。

コンプライアンスはコーポレートガバナンスを構成する要素の一つであるため、ガバナンスが適切に機能していれば、コンプライアンス違反のリスクも低減できると考えられます。

コーポレートガバナンスの目的

コーポレートガバナンスは、企業が社会的責任を果たし、持続的に成長するための仕組みです。その目的は、不正や不祥事を防ぎ、企業活動の透明性を高めること、そして経営の健全性を保ちながら企業価値を高めていくことにあります。

企業の不祥事防止・透明性確保

コーポレートガバナンスの整備は、企業の不祥事を未然に防ぎ、経営の透明性確保につながります。取締役会や監査役、社外取締役といったチェック機能が適切に機能することで、経営者による独断や不正行為のリスクを低減するとともに、意思決定のプロセスや企業活動の開示・説明体制が整います。

こうした透明性のある経営は、株主や顧客、取引先などのステークホルダーに対する説明責任を果たし、企業への信頼も高まります。また、短期的な利益追求に偏らず、持続的な成長を目指す経営の基盤ともなります。

企業価値の向上

ガバナンスの強化は企業価値の向上にも直結します。例えば、透明性の高い経営や社外取締役による監督体制が整っていれば、投資家からの信頼を得やすくなり、株価の安定や資金調達の円滑化にもつながります。

また、役割分担と責任が明確な組織は、従業員も安心してはたらけるため、エンゲージメントやモチベーションの向上が期待できます。これにより、人材定着や生産性の向上にもつながるでしょう。

さらに、ESGなどの長期的な視点を踏まえた経営が可能になり、持続的な成長や新たなビジネスチャンスの創出にも寄与します。

コーポレートガバナンスの構築が重要な理由

企業経営を取り巻く環境は年々複雑化し、コーポレートガバナンスの重要性はかつてないほど高まっています。特に、以下のような社会的・経済的な変化が、ガバナンス強化の必要性を後押ししています。

  • 相次ぐ企業不祥事の発覚
  • ESG投資の拡大や投資家の意識変化
  • グローバル競争の激化
  • 少子高齢化による国内市場の縮小

こうした環境下で、企業は単に利益を追求するだけでなく、持続可能な成長と社会的信頼を両立することが求められています。その基盤となるのが、健全なコーポレートガバナンス体制の構築です。

強固なガバナンス体制があれば、経営判断の透明性が高まり、意思決定のスピードやリスク対応力も向上します。結果として、企業は投資家や顧客、従業員などからの信頼を得やすくなり、長期的な企業価値の向上にもつながります。

また、外部評価の向上や優秀な人材・資金の獲得といった副次的な効果も見込めるため、ガバナンス構築は現代企業にとって「攻め」と「守り」の両面から重要な戦略といえるでしょう。

コーポレートガバナンス・コードとは

「コーポレートガバナンス・コード」とは、上場企業に求められる企業統治の基本的な考え方や実践項目を示した行動指針です。金融庁と東京証券取引所によって2015年に導入され、2018年と2021年に改訂されています。

コーポレートガバナンス・コードは法的拘束力を持ちませんが、企業は「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守するか、しない理由を説明するか)」の原則に基づき、コードの内容を実施するか、しない場合はその理由を市場に対して説明することが求められます。

コーポレートガバナンス・コードは、以下の5つの基本原則で構成されます。

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

1.株主の権利・平等性の確保

すべての株主が公平に権利を行使できるよう、必要な情報提供や制度設計が求められます。具体的には、株主総会の円滑な運営や議決権行使に関する情報提供、外国人株主を含む全株主に対する適切な対応などが含まれます。

2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働

企業の持続的な成長には、従業員や取引先、顧客、地域社会などのステークホルダーとの信頼関係が不可欠です。企業の収益活動に加え、CSR(企業の社会的責任)やサステナビリティの観点から、誠実かつ責任ある企業運営が求められます。

3.適切な情報開示と透明性の確保

財務状況や業績だけでなく、経営方針やESGへの取り組み状況といった非財務情報についても、正確かつタイムリーに開示することが求められます。透明性の高い情報開示は、投資家やステークホルダーとの信頼関係を築くうえで欠かせません。

4.取締役会等の責務

取締役会は、経営の監督機能を担う中枢機関として、会社の戦略的方向性を示し、その実行状況をチェックする責任があります。経営の健全性・効率性を維持するためには、多様性のある取締役の構成や、独立性の高い社外取締役の登用が重要です。

5.株主との対話

企業は、株主との建設的な対話を通じて相互理解を深めることが求められます。中長期的な成長戦略や課題について意見交換を行い、経営に反映させる視点が重視されます。また、対話を継続することで株主との信頼関係の構築にもつながります。

自社でガバナンスを強化する方法

コーポレートガバナンスを強化するためには、単に制度を整えるだけでなく、実効性のある体制づくりと継続的な運用が求められます。自社の状況や課題に応じて、以下のような多角的な取り組みを進めていくことが重要です。

内部統制の構築

内部統制はガバナンスの実効性を支える基本的な仕組みです。企業活動の透明性と適正性を担保するため、以下のような取り組みが求められます。

  • 業務プロセスの可視化・標準化:業務内容に関するマニュアルや手順書を整備し、不正やミスのリスクを軽減
  • 承認フローの厳格化:重要な意思決定や経費処理に複数の承認プロセスを設け、チェック体制を強化
  • リスク管理体制の構築:事業に関わるリスク(財務・法務・情報セキュリティ・災害など)を洗い出し、適切な対応策を講じる体制を整備
  • IT統制の強化:情報システムのアクセス権管理やログ監視、データ保護の徹底など、IT分野でのガバナンスを強化

取締役会の実効性を高める仕組みづくり

形だけの制度ではなく、実際に機能する取締役会をつくることがガバナンス強化の要です。近年では以下のような取り組みが進んでいます。

  • スキルマトリクスの活用:取締役の専門性や経験を可視化し、現在の構成と中長期で目指すべき姿を照らし合わせながら、バランスの取れた構成を検討する
  • 自己評価・第三者評価の導入:取締役会の課題を洗い出し、改善につなげるPDCAサイクルを確立
  • 戦略的議題の設定:経営に対する監督機能を強化するため、取締役会では戦略的な論点にフォーカス
  • 社外取締役の多様性強化:経営に異なる視点をもたらし、意思決定の質を高める

監査等委員会設置会社の設計

企業の意思決定における透明性や客観性を高めるためには、取締役会の監督機能の強化が欠かせません。その一つの手法として「監査等委員会設置会社」への移行が挙げられます。

この制度は、会社法に基づく企業形態の一つで、取締役会の中に「監査等委員会」を設置することで、経営陣の業務執行に対する監督機能を強化します。監査等委員には、社外取締役を含む取締役が就任し、取締役会での議決権も持つことが特徴です。

また、近年はこの制度に加えて、指名・報酬に関する任意の委員会を設置する企業も増えており、各社の状況に応じて、より客観性の高いガバナンス体制が構築されています。

執行役員制度の導入

執行役員制度とは、経営と業務執行の分離を図る制度です。取締役は経営戦略の立案や監督に集中し、業務の執行は執行役員に委ねることで意思決定のスピードと客観性を高めます。この分業体制により、ガバナンスの機能性と業務運営の効率性を両立できます。

社内規定の明確化

社内規定が曖昧だと、従業員の行動規範が不明確になり、不正やミスが発生しやすくなります。以下の点に留意して社内規定を明確化しましょう。

  • 行動規範・倫理規定の策定:企業としての価値観や倫理観を明文化し、全社員に共有
  • 職務権限規定の整備:各職位の権限と責任を明確に定義
  • 情報管理規定の明確化:社内情報の取り扱いルールを明文化し、情報漏洩や不正使用を防止
  • 内部通報制度(ホットライン)の整備:不正やハラスメントの早期発見のための体制を構築

投資家との対話の強化

投資家との良好な関係づくりは、ガバナンスの信頼性を高め、企業価値向上にも寄与します。株主との対話を積極的に行うことで、企業の経営方針や将来ビジョンに対する理解を深め、信頼関係の構築につながります。

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

  • IR活動の強化:決算説明会や統合報告書を通じて、財務・非財務の両面から情報を発信
  • 機関投資家との継続的対話:株主総会だけでなく、面談や意見交換の場を設けることで、企業の説明責任を果たす。ESGや資本政策など、投資家の関心事項を踏まえた対話を通じて、経営方針の検討に役立てる
  • 中長期的なビジョンの共有:将来を見据えた経営方針を明確に発信

株式の持ち合いの見直し

特定企業との資本関係を維持する「株式の持ち合い」は、経営の独立性や株主の平等性という観点から近年見直されつつあります。特に上場企業では、ガバナンスの中立性を確保するため、以下のような対応が進んでいます。

  • 相互持ち合いの解消:取引先やグループ会社との持ち合い比率を低下させ、経営判断の自由度を高める
  • 株主構成の透明化:ガバナンス上の利害関係がない株主を増やすことで、監督の実効性を確保

監修

パーソルキャリア株式会社
タレントシェアリング事業部 HiPro Biz統括部 独立役員紹介サービスG マネジャー

安保 優

2015年、インテリジェンス i-common(現パーソルキャリアHiPro Biz)に新卒入社。コンサルタントや新サービス立ち上げ、ミドル組織の立ち上げを経て、19年からHiPro Biz 独立役員紹介サービスを立ち上げ。全国の法人顧客への営業と個人顧客のハンティング・カウンセリングの両方を手掛け、現在はマネジャーとして独立役員紹介サービスグループのマネジメントを行う。

 

パーソルキャリア株式会社
タレントシェアリング事業部 HiPro Biz統括部 独立役員紹介サービスG

河北 華凜

2015年、インテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒入社。採用領域・経営支援領域のコンサルタントを大手領域にて経験。21年からHiPro Biz 独立役員紹介サービスに参画。全国の法人顧客への営業と個人顧客のハンティング・カウンセリングを実施。

 

まとめ

コーポレートガバナンス・コードの浸透や度重なる企業不祥事を背景に、ガバナンスは企業経営における必須事項となりました。内部統制の強化、社外取締役の登用、社内規定の整備など、実効性ある施策の実行が求められています。

コーポレートガバナンスは単なる法令遵守にとどまらず、透明性ある経営、公正な意思決定、多様なステークホルダーとの信頼関係を築くための要です。 企業にとってコーポレートガバナンスは「選択肢」ではなく、企業があるべき姿を実現するために欠かせない土台であり、経営の根幹を支える仕組みとなりつつあります。

こうした取り組みをさらに強化する一案として、ガバナンス体制の構築や運用に知見を持つ人材の活用を検討してみるのも有効です。「HiPro Biz」に登録されているプロ人材の専門的な視点を取り入れることで、内部統制の実効性を高め、より強固な経営基盤の構築に役立つことが期待されます。

(編集/パーソルホールディングス編集部・HiPro Biz編集部)

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