BtoBマーケティング③
BtoBマーケティングに重要な戦略思考とデータ分析とDX

マーケティング

2020年03月06日(金)掲載

ここまで2回のコラムでは、BtoBマーケティングの特徴とブランドビジョンの下で推進する際の着眼点について解説してきました。最終回の今回は、具体的にそれを実現するために重要なスキルである「論理的な戦略思考」、「データ分析」、「DX」を中心に解説します。

穴の開いたバケツに水を注ぐ?

前回のコラムで、日本企業の課題の一つが戦略性であると指摘しました。企業では日々の活動を一生懸命に行っていますが、時折「穴の開いたバケツに水を注ぐ」様な活動が散見されます。

Productの例
新規客獲得または既存客取引増を狙って新商品を企画。しかし、ターゲット市場が他事業部と重なり、企業として商品のカニバリゼーションが起こることで、お客様が分散して離脱へ繋がってしまうリスクが発生。

Promotionの例
お客様からの問合せを増やすためにwebサイトのリニューアルを計画する際、アクセスログを分析してランディングページや各種コンテンツを設計。しかし、アクセスしていたwebユーザーの大半は、競合企業や自社の社員など、ビジネスとしては非ターゲットであり、そのアクセス履歴を考慮してコンテンツ設計しても本来のターゲットであるお客様には使い辛いwebサイトになってしまい、結局アクセス離脱が増加してしまった。

Peopleの例
社内変革へ向けた新卒採用やキャリア採用の強化を計画。先進的なキャッチフレーズや綺麗な広告で展開したが、社内の実態は変革活動が個別で行われていて、入社前の期待とのギャップに気付いた新入社員が相次いで短期退職してしまう。

バブル崩壊後に多くの企業が新市場開拓に乗り出したものの、なかなかうまく行かない理由の一つに、このような戦略性があったのだと考えます。STPが徹底されないままCRMやSFAを導入してしまうことや、社内にお客様をナーチャリングする仕組みや経験がないままに新規客を獲得しようと活動してしまうケースなどは典型です。その場合、アーリーアダプターのお客様を獲得できたとしても、その後に適切なコミュニケーションができないことで信頼を得ることが出来ず、そのお客様は離脱してしまうのです。1:5の法則もそれを物語っています。新規客獲得には既存客の5倍のコストが掛かるというセオリーです。これをベースに考えるならば、既存客へのナーチャリング経験とノウハウで新市場開拓へ着手することが考えられます。



図:筆者作成

決して全てが準備万端でないといけないわけではありません。それでは何時まで経っても前に進めません。しかし、注いだ水が漏れない様な準備が少なからず必要です。もちろん水を注ぎながら穴を塞ぐ同時並行で良いのですが、「注ぐ」だけの個別最適ではなく「塞ぐ」ことも含めた全体最適という考え方が重要です。下図は典型的な順序関係の例です。


図:筆者作成

言葉に惑わされるな!

専門用語やバズワードに惑わされることも問題です。
上述のPromotionの例では、そのままSEOやCMSへ手を出してしまうと更に問題が大きくなります。このようなアルファベット言葉は魔法の玉手箱ではないので「xxを実行しておけばなんとかなる」と思い込んでしまっているケースは要注意です。最近では「上司からAIで何かヤレと指示された」という話を耳にすることもあります。

マーケティングを検討する時にAIDMAを持ち出すのは悪いことではありませんが、AIDMAやAISASはあくまでもコミュニケーション設計に利用する購買意思決定モデルです。従って、お客様の購買までの行動しか触れていないため、全社で推進するマーケティングの一部の要素でしかありません。そのコミュニケーションにおいては、下図のようにお客様と商品のライフサイクルで考え、納入後のサービスまで含めた全体でコミュニケーション設計をしなければ、「穴の開いた・・・」になってしまいます。

図:筆者作成

筆者にも苦い経験があります。ブランディングとデジタルマーケティングでお客様からの問合せが10倍になりましたが、売上は10倍になりませんでした。セールス・クオリファイド・リード(SQL)を営業に振り分ける機能やサービスの体制までをも視野に入れていたら結果は違っていたことでしょう。

マーケティングの世界は常に新しい言葉が出てきます。特に欧米系からくるものは、日本企業にはビジネスモデルが異なるため注意が必要です。例えば、一人のお客様が商品選定から購買の意思決定をしていく欧米系のスタイルでは、展示会は商談会であり、他の様々なイベントでお客様を囲い込んで1to1リレーションを築いていきます。従って、マーケティングオートメーションがお客様を個人と認識してデータを流して機能します。一方、日本は初回のコラムで紹介したように、購買の意思決定は組織で行われ、そこに多くの人が絡んでいます(スピードが遅くなる理由の一つです)。これが欧米系のMAツールでそのまま全ての機能を使えない理由の一つです。

このような専門用語に注意し、戦略としての本質を考えることがマーケティングには重要です。

Root Causeを見よ!

筆者が最も危惧していることが「Root Cause:根本原因を把握していない」ということです。
どこの企業もどの担当者も一生懸命にマーケティングを行っているのです。しかしそれが効果に表れにくいのです。
何故でしょうか。

それは、根本原因への対処ではなく、表面的な一時的処置になってしまっているためです。そのため、直ぐに違う形で問題が発生してしまい、上述した「穴の開いた・・・」と同意と言えます。
ここは2回目のコラムで解説した「ソリューショニスト」としての腕の見せ所です。「何故?」を繰り返し、常に本質を考えていくようなアブダクション推論で考える習慣が必要です。

図:筆者作成

Root Causeへの対応をすることによって、他の対応は不要になるかもしれません。また、別の課題へも好影響を与える可能性もあり、対応コストを最小限にするだけではなく相乗効果も期待できます。何より、普段からそのように考え行動する経験の蓄積によって、知の創造へと繋がり、今後の戦略性を高める基礎となっていきます。目に見えて起きている事象にいきなり取り組むということも必要ですが、一呼吸置いて「何故?」と考えてRoot Causeへ近づいていく思考が大切です。

このような姿勢は、人とのコミュニケーションにも有効です。
特に社内の部署間調整で意見が食い違う際に、相手が想定していた市場は何で、お客様は誰か、などを掘り進めて共有することで議論の方向性が一つになっていきます。
また、お客様への提案にも、表面的な課題への提案ではなくRoot Causeへの提案の方が効果的であることは言うまでもありません。
このような考え方で進める論理的な戦略思考は、マーケティングを進める上で非常に重要なスキルなのです。

事実データでマーケティングを変える!

論理的に考えるためには、まず事実を把握しなければなりません。
近年はその事実がより広く深く、また大きく変動しているのでマーティングが困難になっているのです。
事実を把握する力を経験知に加えると効果が更に高まります。人間の限界を補うためにDIGITALを採り入れて、「KKDにKDDを」加えるのです。

KKD:経験と勘と度胸
KDD:Knowledge Discovery in Database

人間が情報を入手して把握できる量には限界があります。また、データから情報へ変換するにも人間の目や脳や感情は、時に誤った解釈へ導いてしまいます。ですから、DIGITALでデータを活用するのです。

ビッグデータという言葉が大流行しました。今でもデータサイエンティストの必要性は高まっています。これもDIGITALでデータを活用するニーズの表れです。このビッグデータという言葉はバズワードになりつつありますが、筆者はこの言葉の意味をデータ量ではなく「価値がビッグ」なのだと捉えています。データを活用すると、今まで見えなかったことが見えるようになる価値があるのです。データ量は少なくてもその効果はあるのですが、データ量が多いほど信憑性が高くなり、以前の技術では処理しきれなかったデータが今では可能になってきています。それで「ビッグ」データのような言葉になったのでしょう。
環境変化が激しい現在、市場を理解するためにマーケティング分析を進める上では必須の技術です。

その中でも特にテキストマイニングは注目すべきであると筆者は考えています。
例えばアンケート分析です。5段階で回答された値の平均や標準偏差などの集計は、クラスター分析や重相関分析などで行われますが、値の4と5の違いは回答者の主観によってばらつくため、その差を考察するのはとても困難です。しかし、フリーコメントには4や5にした理由が述べられており、そのコメントを分析することには大きな意味があります。
英語と日本語の言語の違いから、日本でのテキストマイニングは普及が遅れました。しかし、筆者の経験では、一般化され始めた2001年頃からくらべると現在では格段の進化をしており、アンケートやコールセンターだけではなく3Cや5Pの分析にも活用しています。

社内の部門間調整が難しいBtoBですが、そこにも事実データの活用は役立ちます。
例えば市場情報やお客様データは社内の共通語になるのです。これを共有することによって、調整が必要な社内関係部門は厄介者ではなく、同じブランドビジョンへ向けて活動するベストパートナーになるのです。

図:筆者作成

DIGITALでお客様と繋がる!

お客様は、高Loyalty客、既存客、休眠客、競合客、知っているだけ客、アンチ客、無関係と思っているお客様など様々です。要するに、取引実績の有無だけではなく、感情を伴っているということであり、多種多様なお客様とのコミュニケーションが一つの方法だけで良いはずがありません。同じ価値訴求をしようとしても、様々なお客様とのコミュニケーションはチャネルやコンテンツを使い分けることが必要であり、それをDIGITALが可能にするのです。

図:筆者作成

ただし、注意が必要なのは戦略です。多岐にわたるチャネルを持てば良いというわけではありません。上図のように、戦略思考でシナリオとコンテンツとチャネルの設計が必要不可欠です。

DXは企業文化を成す

意思決定のために分析するデータには信頼性が求められます。大きく影響するのが、データを生成するアプリケーションです。アプリケーション仕様を把握し、データの特性を理解して分析を行わなければ、意思決定を誤った方向へ導いてしまいます。
日々の業務を遂行する中でそのアプリケーションを使う為、その仕様を決定するのは業務であり、業務が最適化されていることが前提となります。
要するに、データ活用するマーケティングは最適化された業務がベースなのです。
個々の業務は独立したものではなくシームレスにバリューチェーンを形成しており、マーケティングが経営そのものである所以でもあります。

一方で、業務の効率化を狙ってIT化やオートメーション化することをDXと捉えるケースもありますが、以前のコラムでも解説したようにブラックボックス化してしまうリスクがあります。従って業務改善には下図のような検討順序が必要です。

図:筆者作成

DXの目的は「効率化」ではなく「変革」であり、その変革の下で設計された業務が生成するデータだからこそ信頼性が高くなるのです。マーケティングを推進してブランドビジョンを実現するためには、そのための業務が戦略的に設計され、遂行される必要があるということなのです。その戦略がビジネス変革を目指すものであるからこそ、このような業務機能を構造改革として再定義するのです。

ここまでの話を整理すると、マーケティングは業務を最適化することが必要だ、ということです。
それをDIGITALで推進してビジネスを変革させること、それがDXだと筆者は考えています。
そのように最適化された業務機能はDIGITALで標準化され、社員が日々行う業務が決定されます。日々の業務は企業に染み込み、それが企業文化を形成していくのであり、それこそが最も強い差別化戦略であると筆者は考えます。
企業文化を形成するDIGITALは全社での経営活動そのものであり、マーケティングと同義なのです。


図:筆者作成

そのような推進機能に従来はCIOという役割がありました。そのCIOを守りのIT戦略と例えるなら、上述のような攻めのDIGITAL戦略は「CDO」の役割と言えるでしょう。また、2回目のコラムで解説したように、マーケティングを推進するCMOの広い役割の中でも、特に「C3PO」(Product/Promotion/People)の統制が有効です。従って、今後のBtoBマーケティングは、CDOとC3POの融合が大きなキーポイントになると考えています。

まとめ

全3回の連載でBtoBマーケティングを解説してきました。一部偏った表現もあったかと存じますがご容赦ください。
全体を通して筆者が最も言いたいことは、「BtoBだからこそマーケティングが必要なのだ」、ということです。
それは宣伝広告だけでなく、BtoB企業自体をDIGITAL活用で変革して自社の個性で市場を創造していく経営活動なのです。
日本経済における労働人口の減少や総労働時間の削減などは既に起こっています。その中でのグローバル競争ですので、戦略性を常に高める必要があり、宣言だけの変革では何も変わりません。失われた10年が延びてしまったような同じ過ちを繰り返さないためにも、今こそ戦略思考を見つめなおして未来社会を共に築いていきましょう。

執筆者H.Y氏

31年間製造業界の大手企業3社でITとマーケティングを推進。ITでは業務改革から情報システムを構築し在庫半減を実現。マーケティングでは営業と商品企画およびブラディングとしての経営計画をデータ分析の活用と共に戦略推進し、デジタルマーケティングで当時の引き合い数の10倍化に成功した実績も有り。

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