アフターコロナに人事が直面する課題と対応方針

人事

2020年07月01日(水)掲載

コロナ禍で業務の進め方や環境を大きく変更する必要性が出たため、それらへの対応に労力を費やした人事部門の方も多いと推察します。技術の進化によって解決できそうな部分と、それを使う人間の気持ち・心がけといった部分もあるでしょう。今回は、アフターコロナの状況下で、人事が直面している課題とそれらへの対応方針について、研修・採用・評価およびデジタル化の観点から考えてみたいと思います。

研修

企業の人材開発の一環として、社内で新入社員研修やビジネススキル・マネージャー向け研修といった研修プログラムを企画・実施しています。研修実施方式としては、社内外の会場に集まって座学やワークショップを行う「集合研修」と、インターネット環境を使って研修を受講する「オンライン研修」の2つがあります。「オンライン研修」においては、既に完成されたコンテンツを照会する「e-ラーニング」と、動画をリアルタイムで配信して双方向にコミュニケーションを取ることができる「ライブ配信」に、さらに区分けすることができます。

日本においてオンライン研修も普及しつつありますが、集合研修を中心に人材開発プログラムを計画していた企業はまだ多いと思います。今回、緊急事態宣言が発動されオフィス勤務から在宅勤務にシフトした企業においては、それに呼応して研修の「延期」か「オンラインによる実施」のどちらかを選択したことでしょう。選択結果の違いは、「オンラインで行うためのインフラ環境の有無」「研修コンテンツがオンライン実施に対応しているかどうか」によるものです。事前に準備できていなかったとしても、即時に「インフラ環境が用意」「研修コンテンツをオンライン用に変更」できた場合は、変化に対応できます。

集合研修で実施していたものは、実施方法・研修コンテンツの見直しや、仮に集合研修ができなかった場合の代替方法(バックアッププラン)の検討が必要となります。なんでもかんでも、集合研修をオンライン研修に「置き換え」ればよいというものではありません。集合研修・オンライン研修それぞれにメリットとデメリットがあるからです。研修プログラムの中には、集合研修でしか行えないもの(例:実機操作などオンラインではできないことを扱う、複数人で文書以外の何かをつくりあげるなど)や集合研修の方が効果的なこともあるので、オンライン研修とうまく組み合わせることが肝要です。

採用

採用戦略の変化に伴い、採用活動における質も量も変わってくるでしょう。中途採用においては新型コロナウイルスの感染拡大により不安定になりつつある雇用や景気を考慮し、転職を検討する人もいれば、反対に今は転職を控えようとする人もいます。いずれにせよ、転職に対して慎重になる方が増えてくるのではないかと思います。そのため、採用戦略においては採用案件の優先順位や難易度を明確にし、工数や費用をふまえた採用手法(採用チャネル)の選択が必須となります。Webなどによる情報発信は、会社のホームページだけではなく、SNSやオウンドメディアなどターゲットにあわせた対応を行わないと、潜在的な候補者層にアプローチすることすら難しくなります。

新卒採用についても変わっていくでしょう。新卒一括採用に伴う会社説明会や面接の時期と緊急事態宣言が発動された時期が重なったため、新卒採用活動をいったん保留にした、あるいは、急遽オンラインによる会社説明会や面接に切り替えるといった対応の変更を行ったところが多かったと思います。会場に人を集めて会社説明会を開催するという方法も、見直すべきタイミングがおとずれました。全てをオンラインに切り替えればよいというわけではありませんが、状況やニーズに応じて使い分けることはできるでしょう。多くの人が参加する会社説明会は、オンラインによる実施を中心にすることで、遠方からの参加も可能となります。採用担当者が会社説明会や選考のために全国行脚にすることも過去のものとなるでしょう。
また、そもそも一括採用というやり方が今後も適切なのかどうかも検討すべきでしょう。「ジョブ型」雇用に変わっていくことによって、エントリー(初級)レベルのポジションへ応募するか、インターンシップなどによって職業経験を積んでから就職することが主流となってきた場合、入社のタイミングも新卒者は全て4月とは限らなくなるからです。

面接もオンラインで行うこともできます。「オンライン面接だと、その人の雰囲気がわからない」というのは、採用担当者が単に候補者とのラポールが形成できていないだけであって、オンラインかどうかというのはそれほど関係することではないです。

評価

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、在宅勤務を実行したことをきっかけとしてテレワークが定着していくでしょう。それによって、実際に「どのような成果」を出したのかによって評価が決まり、それに伴って報酬に反映される仕組みへとさらに加速的に変わっていくはずです。オフィスで勤務し、上司が部下の仕事の様子がわかりやすい状況ならば「どんな風に仕事をしていたのか(振る舞い)」「どのくらい仕事をしていたのか(時間)」といったことをふまえた評価が可能でした。「目標には達していなかったが、がんばっていた」「夜遅くまで仕事をしていた」といった、「仕事の成果」という点からの結びつきが無い要素も考慮することはできたかもしれません。しかし、リモートワークの場合、どのように仕事をしているのかといったことが見えにくいため、仕事の結果だけで評価をしていかざるをえなくなります。

そうなると、業務に対するゴール設定(アウトプット内容・期日)と責任範囲の明確化が必須となります。「時間があったらやっておいて」といった「曖昧な指示」は成り立たなくなります。これまで上司と部下の間での1対1によるミュニケーションといえば、評価制度における半年に1回程度の評価面談が主流でした。これが、週に1回、1回につき30分くらいのOne on Oneミーティングに変わっていくことになるでしょう。日々の業務の報告や相談事項などに関してこの場で解決させるためのものと位置付けられます。部下の現状をふまえて部下の能力を引き出す「育成のための時間」です。こういったことを長期に渡って実施していると、半期(あるいは年度)に1度の評価面談は、それほど時間もかからないものとなるでしょう。上司と部下が適切なタイミングでコミュニケーションを普段からとることによって、部下の評価制度やその結果に対する納得度が高いからです。常にコミュニケーションをとっておりその積み重ねがあるため、「そのような評価をされるのは心外だ」といった「サプライズ評価」が発生することは無くなるでしょう。

デジタル化

緊急事態宣言をきっかけに実行に移した在宅勤務によって、業務遂行における問題点が明確になってきた企業も多いはずです。オフィスにて仕事をすることを前提としたため、紙や印鑑を使った業務だったとしても成り立っていましたが、そのままリモートワークに移管しても対応できないことが明らかとなりました。業務で使用する勤怠システムに外部からアクセスできないため勤怠実績が入力できない、といったことや、社内環境にアクセスするためのVPNツールがアクセス数の制限があるため、使用しようとした時に社内環境に入ることができず仕事にならなかったケースもあったようです。人事だけではありませんが、業務のデジタル化はますます必須となっていくでしょう。そのためには業務プロセスの見直しだけではなく、業務そのものの要・不要を改めて整理することが先決となります。また、どんなデータも社外環境からアクセスできればよいというものでもなく、どういった役割の人がどんなデータ・システムにアクセスできるのかを定義した上で、セキュリティーを担保した仕組みを構成することになるでしょう。

上述した内容のほとんどは、コロナ禍の前から認識されていた事項です。ただ、BCP(事業継続計画)の観点から鑑みても、今までのやり方をそのまま維持するのは難しい局面となっており、各企業で優先順位をつけて対応していくことが求められているのではないかと思います。

執筆者M.N氏

外資系コンサルティングファームで人事コンサルタント、事業会社で人事企画マネージャーとして人事に20年たずさわった経験を活かして、2016年にフリーランス人事プランナー・コンサルタントとして独立。2018年に法人化。現在、人事全般のプランニング・コンサルティング・実務を行っている。

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