【ひな型付き】顧問契約書の作成手順や注意点を徹底解説

法務・ガバナンス

2025年05月30日(金)掲載

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外部の専門家と顧問契約を結ぶ場合、後々トラブルへと発展しないように、契約内容を明確にした書面を発行する必要があります。しかし社内に顧問契約書のフォーマットがないため、作成方法や契約を結ぶ流れがわからない経営者や管理者も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、顧問契約書のひな型や作成手順を具体的にご紹介します。ぜひ参考にしてください。

顧問契約書とは?

顧問契約書とは、その名の通り顧問契約を結ぶ際に作成する書類のことです。書面には契約目的や契約期間、報酬その他具体的な業務内容などが記載されます。

書類を交わさずに業務にあたると、業務範囲や責任の所在が不明確となり、後々のトラブルに発展する恐れがあります。顧問契約書は「専門家と顧問契約を結ぶときに必須の書類」といえるでしょう。

そもそも顧問契約とは?

そもそも顧問契約とは、専門家に顧問料を支払い、相談や助言、事務処理を行ってもらう契約のことです。専門家は高い知識や経験を有しているため、顧問契約によって企業は多くのサポートが受けられます。

契約期間中であれば、必要なタイミングで業務を依頼できますが、内容によっては顧問料とは別に費用がかかる場合もあります。ただし、その際の依頼料は顧問契約を結んでいない場合と比べて低額なケースが一般的です。

報酬の支払い方法にはさまざまなパターンがあるものの、月額制またはタイムチャージが多いようです。ほとんどの場合は、企業が長期的な見地から専門家と継続的な関係を築くことを前提に、顧問契約が結ばれます。

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顧問契約のメリット

企業が外部の専門家と顧問契約を締結することには、多くのメリットがあります。

例えば、弁護士や税理士、ITの専門家などと関係を構築することで、日常的な相談から緊急時の対応まで、迅速かつ柔軟な支援が受けられます。トラブル発生時に新たに専門家を探す手間がなく、自社の状況を理解している顧問に的確なアドバイスを求められるのです。法務や経営戦略に関わるアドバイスを顧問弁護士に依頼すれば、顧問料の範囲で対応してもらえるため、スポットで依頼する場合と比べてリーズナブルかもしれません。

ほかにも、専門家と顧問契約を結ぶことで、社内に専門部署を設置するよりも人件費や教育費、運営費等の面でコストを抑えられるかもしれません。

このように、顧問契約は専門的な知見を手軽に取り入れつつ、強力なサポート体制を築く手段といえるでしょう。

顧問契約と業務委託契約の違い

厳密には、顧問契約も業務委託契約の一種ですが、専門家の知見を必要な場面で求めるために継続的に契約が交わされる場合には、一般的な業務委託契約とは区別されます。

両者の違いは以下の通りです。

顧問契約 一般的な業務委託契約
目的 専門家の知識や能力を経営に活かす 特定の業務を外部に委託する
業務内容 定期的な相談対応(顧問としての意見提供や契約書の作成・確認など) ・システム開発
・Webサイト制作
・記事の作成
・翻訳
・事務作業代行
など
契約形態 継続的な契約が前提 単発的な依頼も継続的な依頼も可能
報酬 契約期間中、相談頻度にかかわらず、一律で支払われる 業務の遂行や成果物に対して支払われる

まずは、契約の目的や業務内容の違いが挙げられます。顧問契約は、専門家の知見の継続的な活用を目的としています。業務内容は、経営の意思決定を支援するための助言や、法務・税務に関する日常的な相談など、多種多様です。対して一般的な業務委託契約は、プロジェクトや一時的な作業を外部に委託する際に締結される契約です。

また、契約の形態にも違いがあります。顧問契約は多くの場合、月額報酬制で継続的な助言や支援を行います。しかし、業務委託契約は成果物の納品単位や時間単位での報酬となることが多く、個別具体的な業務内容と成果物が契約書に明記される点が特徴です。

このように、両者は契約の方向性や活用方法が異なるため、どちらの契約形態が適切かをその都度判断することが必要です。

顧問契約書の重要性と役割

専門家との顧問契約自体は口頭でも成立するため、法的に顧問契約書の作成が義務づけられているわけではありません。実際、契約書を交わさないまま顧問業務を依頼する企業も存在するようです。

しかし繰り返しになりますが、顧問契約書がなければ業務範囲や報酬の算定方法、責任の所在が証拠として残りませんので、契約内容について「言った・言わない」の水掛け論となり、トラブルに発展するリスクがあります。

契約書を作成して、想定し得る全ての事態に備えておけば、万が一の際に企業と専門家の双方を守ることができます。

顧問契約書の作成手順

顧問契約をスムーズに進めるためには、契約書の作成が欠かせません。顧問契約書は、両者の合意内容を明文化することで、誤解や認識のずれを防ぎ、安心して継続的な関係を築くための重要な書面です。

ここでは、顧問契約書を作成する際の基本的なステップを3段階に分けて解説します。

ステップ①契約内容をすり合わせる

契約書作成の第一歩は、依頼内容と条件を細部にわたって詰めておくことです。顧問に期待する役割や対応範囲、相談方法、報酬の決め方などを具体的に話し合い、両者の認識を一致させる必要があります。

顧問料には日常的な相談対応も含まれるのか、特別な業務は別途報酬が発生するのかといった点を取り決めておけば、将来的なトラブルを未然に防げます。また、業務の頻度や対応時間の目安、緊急時の対応可否などもすり合わせておくと安心です。

あいまいな表現や期待値のずれが後に大きな問題となるため、この段階での綿密なコミュニケーションが非常に重要です。

ステップ②顧問契約書のドラフトを作成する

内容のすり合わせが完了したら、合意した事項をもとに顧問契約書のドラフト(草案)を作成します。この時点では、正式な文書というより、両者で確認するためのたたき台という位置づけです。

ドラフトには、以下のような項目を明記するのが一般的です。

顧問の業務内容および対応範囲
  • 顧問料と支払い方法
  • 契約期間と更新・解約の条件
  • 機密保持に関する条項
  • 損害賠償責任や免責に関する取り決め

すでに専門家側でひな型を持っている場合は、それをベースに修正を加えるという方法もあります。ただし、企業側としても文面を精査し、自社のリスクや意図に合っているかどうかを慎重に確認することが大切です。

ステップ③契約書を完成させる

ドラフトの内容に両者が納得できたら、最終調整を行い、正式な顧問契約書として完成させます。

最終版が完成したら、記載ミスや文言のあいまいさがないかを再度チェックしてください。必要に応じて、第三者の弁護士や法務担当者に確認してもらうことも有益です。

完成した契約書は、両者が署名・押印した上で1通ずつ保管します。これにより、契約内容に関する証拠としての効力が生まれ、万が一の紛争時にも有効な対応が可能になります。

顧問契約書に記載する項目

顧問契約書には、必要な情報が取りこぼしなく記載されていることが大切です。以下では、顧問契約書に盛り込むべき主要な項目について、具体的に解説します。

①契約書名

契約書の表題には、その契約の内容を端的に表す名称を記載します。一般的には「顧問契約書」で問題ありませんが、対象となる業務に応じて「税務顧問契約書」や「経営顧問契約書」とすれば、よりわかりやすくなります。タイトルだけで契約の趣旨が一目で理解できるよう工夫しましょう。

②契約当事者の名称

契約の当事者である双方の正式な名称も必要です。法人の場合は「株式会社」や「合同会社」など、法人格を示す部分を含む正式名称を使用してください。

③契約するサービス・委託業務の内容

顧問が提供するサービスの範囲と内容について、具体的に記載します。例えば「経営相談」「税務申告書の作成」「労務管理に関する助言」など、業務ごとに列挙しておけば、認識の食い違いが起こるリスクが小さくなります。また、契約の対象外となる業務についても明記しておけば、業務範囲がよりわかりやすくなるでしょう。

④費用

顧問料として発生する金額を記載します。月額固定報酬や時間単価制(タイムチャージ)、成果報酬型など、契約形態によって報酬の設定方法は異なります。加えて、支払い方法や支払い期日、振込手数料の負担者も記載しなければなりません。業務遂行にかかる経費が別途請求される場合は、その旨も記載しましょう。

⑤遅延損害金

顧問料の支払いが期日を過ぎた場合の、遅延損害金の発生条件と利率を定めます。契約で決まっていない場合は法定利率が採用されますが、契約書上で特別な利率を設定することも可能です。

⑥契約期間

契約が有効となる期間について、開始日と終了日を明示します。期間が満了した後、自動的に更新されるのか、別途協議して延長を決めるのかも合わせて記載します。継続的な顧問契約であれば自動更新条項を、例えば特定の期間だけ依頼してみる場合であれば期間を明確に区切るのが一般的です。

⑦解約事由

契約を途中で解消できる条件や、そのための手続きを記載します。民法上、顧問契約が準委任契約の場合、原則としていつでも解約が可能です。しかし、業務の進行状況に応じて報酬の支払い義務が生じるため、解約の際の精算方法も明記しておくと、後々のトラブルを防げます。また、相手に重大な契約違反があった場合の解除権なども規定しておくと良いでしょう。

⑧管轄する裁判所

契約に関連して万一紛争が発生した場合に、どの裁判所を利用するかを定めておくことがあります。これは専属的合意管轄といわれるもので、民事訴訟法の定めにより合意で指定することが可能です。当事者の所在地に近い裁判所であれば、移動や手続きの負担を軽減できます。

顧問契約書のひな型

以上8つの要点を押さえた顧問契約書のひな型を紹介します。自社で顧問契約書を発行する際に、ぜひご活用ください。

顧問契約書

○○○○(以下「甲」という)および○○○○(以下「乙」という)は、乙が甲のために顧問業務を行うにあたり、以下のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。

第1条(業務内容)

甲は乙に対し、乙が甲の「顧問」として以下の業務(以下「本件顧問業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。

1.○○○○
2.○○○○
3.○○○○
第2条(契約期間)

本契約の有効期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までとする。ただし、期間満了の30日前までにいずれからも書面による更新拒絶の通知がない場合、本契約はさらに1年間自動更新されるものとし、以後も同様とする。

第3条(報酬および支払い方法)

甲は乙に対し、本件顧問業務の対価として、月額顧問料○円(消費税込み)を支払う。顧問料は毎月末日までに、翌月分を乙指定の口座へ振込送金するものとし、振込手数料は甲が負担する。本件顧問業務の遂行に通常想定を超える時間が必要となる場合、甲乙は別途協議の上、追加報酬および支払い条件を決定する。

第4条(遅延損害金)

甲が前条に定める支払いを遅延した場合、支払い期日の翌日から支払い完了日まで、年5%(365日割計算)による遅延損害金を乙に支払うものとする。

第5条(費用負担)

本件顧問業務遂行上必要となる交通費、通信費等の実費は、事前に甲乙協議の上、書面で合意した方法により、甲が負担するものとする。

第6条(解除事由)

以下の事由が生じた場合、甲および乙はただちに本契約を解除できる。

1.本契約の履行が不可能となったとき
2.相手方が本契約の義務履行を拒絶し、または重大な契約違反があり、相当期間を定めた催告にもかかわらず是正されないとき
3.相手方が強制執行や破産、民事再生、特別清算等の申し立てを受けたとき、または自ら申し立てたとき

前項によらない任意の中途解約は、解約希望日の30日前までに書面により相手方へ通知することで可能とし、その場合は履行割合に応じた報酬精算を行うものとする。

第7条(機密保持)

乙は、本件顧問業務遂行にあたり知り得た甲の技術上、営業上その他一切の秘密情報を、甲の事前承諾なく第三者に開示・漏えいしてはならない。本条の義務は契約終了後も存続する。

第8条(管轄裁判所)

本契約に関する紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

本契約締結の証として、甲乙各自が署名捺印または記名押印の上、本書2通を作成し、甲乙各自1通を保有する、または本契約書の内容を記録した電磁的記録に、それぞれ電子署名法に定める電子署名を行い、各自その電磁的記録を保持する。

令和○年○月○日

甲住所
○○○○(署名/捺印)

乙住所
○○○○(署名/捺印)

以上を基に、実際の契約に合わせた内容に書き換えると良いでしょう。法律の内容や市場の状況が変わる可能性があるため、定期的に内容を見直すことを推奨します。

顧問契約書に関する疑問点

続いて、顧問契約書の作成過程で生じやすい疑問にお答えします。

一般的な契約期間はどれくらい?

顧問契約の期間は、通常1年間を基本とし、契約満了時に自動更新されることが一般的です。この形式であれば、毎年契約を締結し直す手間が省けるため、長期的な関係を築く上でも便利です。

一方で、初めて依頼する相手や業務内容が不明確な場合には、3か月〜半年といった短期契約からスタートすることも一つの方法です。試用期間を設けることで、契約相手の業務対応や相性が見極められて、長期的な関係を築いていけるかが判断できます。

法人との顧問契約は可能?

顧問契約は、依頼する専門家が個人であっても法人であっても締結することが可能です。

弁護士や税理士個人に依頼する場合には、契約相手は基本的に「個人事業主」となります。しかし、これらの専門家が法人格を持つ場合には、その法人を契約当事者として契約を結びます。

契約書を作成する際には、契約相手が個人か法人かを正確に確認し、正式名称や所在地などを明記してください。

顧問契約書の作成はトラブル回避につながる

本記事では、顧問契約書の重要性をお伝えした上で、契約書のひな型を紹介しました。

企業が経営課題を解決するためには、プロに依頼するのが最適です。顧問契約を締結する際は、内容を細かく取り決めた契約書を作成し、業務範囲を明確にしておきましょう。

監修 

 弁護士法人ブライト 和氣良浩 弁護士

経営支援サービス「HiPro Biz」

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