アクセラレーターとは?アクセラレータープログラムの概要とメリットを解説
2022年05月31日(火)掲載
オープンイノベーションの一環として、事業会社と新興会社がタッグを組み、新たな事業を促進させる「アクセラレータープログラム」をご存じでしょうか。国内外問わず、大手企業が開催していることからしばし話題に上っていますが、何ができるのか、またどのように実施すればよいかを知りたい方も多いのではないでしょうか。
当コラムでは、アクセラレータープログラムの基本情報として、概要からメリット・デメリット、国内外における実施例をご紹介します。
■事業の成長に欠かせないアクセラレーターとは?インキュベーターやVCとの違いを解説
■今話題のアクセラレータープログラムの概要とメリット
■活用フロー(流れ)を解説
■【業界別】アクセラレータプログラムの開催実績例
■まとめ
事業の成長に欠かせないアクセラレーターとは?インキュベーターやVCとの違いを解説
まずは、「アクセラレーター」というワードにどのような意味があるのか、見ていきましょう。
アクセラレーターとは
アクセラレーター(Accelerator)とは、しばし「加速機」「加速設備」などと訳されます。車の「アクセル」も当ワードに起因しているように、「加速」を促すモノ・コトの総称といえるでしょう。
ここから転じて、当コラムにおけるアクセラレーターは「事業を促進させる支援者」を指します。通念上では、スタートアップやベンチャーなど立ち上がったばかりの新興企業へ、大手の事業企業が経営リソースを提供する、その一連を指すことが多いようです。
インキュベーターとの違いとは
「新興企業への経営支援」というモデルにおいては、インキュベーターを思い浮かべた方も多いかもしれません。両者において、事業促進における共創という観点では共通項を持ちますが、その関わり方においては、いくつかの相違点があります。相違点について、もう少し詳しく見ていきましょう。
一つ目の相違点は「支援対象」です。アクセラレーターは「アーリー期(起業後、事業を拡大していく段階)」の新興企業や「一般企業内の新規事業部門」等、土台ができたばかりの事業が、主に対象となります。これに対し、インキュベーターは「シード期(立ち上げの準備段階)~設立直後」の新興企業が対象です。
二つ目の相違点は「支援目的」です。アクセラレーターでは、新興企業の「アイデアのタネ」をもとに、スピーディな事業拡大を目的とし共創します。一方、インキュベーターは語源であるインキュベーション(incubation)の名の通り、開発研究やビジネスモデルの構築といった立ち上げ段階から携わり、新事業の創出を支援します。
三つ目の相違点は「支援期間」です。アクセラレーターは短期間での事業拡大を目的とするため、「数週間~数カ月」と短期スパンです。対して、インキュベーターは開発プロセスからともに手掛けていくケースも多く、「数年程度」をかけて共創していきます。
ベンチャーキャピタル(VC)とはどう違う?
もう一つ「新興企業への経営支援」において類似しているワード、ベンチャーキャピタルとの相違点にも触れておきます。
双方において、もっとも違う点は「支援目的」にあるといえるでしょう。ベンチャーキャピタルは、投資のリターン(出資先の株式)による利益獲得をゴールとしています。
ベンチャーキャピタルによって出資元が利益を得るためには、新興企業を上場させたり、M&Aによって株式の価値を上げなければなりません。そのため、株式の価値を上げるために、出資元が出資先の経営そのものに介入するケースも往々にしてあるのです。
今話題のアクセラレータープログラムの概要とメリット
アクセスレータープログラムとは
話を本題に戻し、アクセラレータープログラムについてご紹介します。
アクセラレータープログラムとは、事業会社が新興会社との協業による事業の「創出」や「成長を加速させること」を目的とし、開催されるプログラム(取組)を指します。
アクセラレータープログラム4つのタイプ
アクセラレータープログラムは、大きく分けて4つの体系に分けられます。それぞれについて詳しくご紹介します。
事業会社単体で募集するタイプ
支援側となる企業が、公募で対象企業を募り、選定から運営までを一気通貫で担うタイプです。支援会社は大手であることが多く、アクセラレータープログラムのリソースはすべて支援会社から捻出されることとなります。
複数の事業者で募集するタイプ
単体企業だけで支援を実施するのではなく、同業界の別企業や地方自治体・地域金融機関など、複数の事業者が連携し、協業を募るタイプです。前者と比較すると、募集するテーマやリソースの幅が広がるため、より多くのスタートアップ企業を募りやすいといえます。当タイプは、一般的に、コンソーシアム型アクセラレータープログラムと呼ばれています。
仲介会社によるマッチングタイプ
アクセラレータープログラムの運営そのものを担う仲介会社が主体となって、事業会社と新興会社をマッチングするタイプです。仲介会社がマッチングのコーディネーターとなることで、事業会社・新興会社双方に知見がなくとも、自社の状況や課題に合う企業と出会える可能性が高まるといえます。
仲介会社によるコンサルティングタイプ
こちらも、アクセラレータープログラムの運営を担う仲介会社が、事業会社と新興会社の間に介入する形式です。マッチングタイプと異なる点としては、事業の土台となる風土づくりや人材育成など、根本的なところから事業促進のアドバイス・支援を行う点にあります。
メリットとデメリット
アクセラレータープログラムは、規模や業種の枠を取り払い協業するプログラムです。当観点から、どのようなメリット・デメリットが生まれるかを見ていきましょう。
メリット
事業会社にとっては、自社内だけでは発想に至らないような、新たな価値やアイデアのタネを生み出す機会となる点が、大きなメリットといえます。また新興会社にとっては、自社内だけで賄いきれない資金や技術などのリソースを協業によって補強できる点がメリットです。
デメリット
事業会社・新興会社ともに、アクセラレータープログラムと既存事業の運営を両立させなければならない点がネックとなりえるでしょう。ともするとアクセラレータープログラムへの取組が片手間となり、頓挫してしまうリスクもあります。成功に導くためには、プログラムの参加を決断して終わるだけでなく、プログラムの当事者となるステークホルダーへ理解を求めることも必要となります。
活用フロー(流れ)を解説
当項では、前項「事業会社単体で募集するタイプ」での開催を想定し、開催側の視点からフロー例をご紹介します。
1:現状把握とゴール設定
まずは、開催するアクセラレータープログラムに対して、自社内のリソースをどの程度割けるかを見積もります。またあわせて、アクセラレータープログラムの実践によって何を成し遂げたいか、どのような状態となっていたいか(ゴール)を設定します。
2:ビジネスアイデアの募集
大枠が決まったところで、ビジネスアイデアのタネを募集します。募集時には、自社が目指すビジョンや戦略に沿ってテーマを設定し、募集するケースが一般的です。
3:選抜/選考
集まったビジネスアイデアのタネから、あらゆる要素を加味し選抜します。検討要素としては、アイデアの目新しさや市場ニーズといったマーケティング視点、ビジネス実現にかかる予算やスケジュール感などの実現性、さらには協業の必然性などが 挙げられます。
4:支援/実行期間
協業する企業を選抜したら、いよいよ支援のフェーズです。はじめに、互いの目指すゴールや双方提供できるリソースなどの情報を相互共有した後、提案を受けたアイデアのタネを、双方のリソースを活用してどのように具現化するか壁打ちを繰り返します。実現可能な段階まで構想を練った後は、ビジネスモデルの実証実験と効果検証を実施。効果が見込めたところで、いよいよ事業計画としてビジネスを具現化します。
5:成果発表
当フェーズはデモデー(DemoDay)とも呼ばれる、いわば「新ビジネスのお披露目会」です。目的としては、社内外を問わず、新ビジネスを本格的に推進・拡大する意志表明や、企業のブランディング効果を狙う点にあります。必要に応じてお披露目のプロモーション等も行うなど、狙いたい対象範囲を定めて周知し、デモデーに挑みましょう。デモデーをもってリリースした段階で、アクセラレータープログラムはいったん一区切りとなります。
【業界別】アクセラレータプログラムの開催実績例
以下からは、国内における「IT/デジタル」「金融」「メーカー」「自治体」の4業態にて、アクセラレータープログラムの実践例をご紹介します。
IT/デジタル業界の実績例
A社の例
インターネットサービスに強みがあるA社では、同社が持ち合わせる技術や経営ノウハウを、ビジネスを立案したい新興企業や学生等へ提供し、社会に影響を与える目的でアクセラレータープログラムを展開しています。オンラインマーケティングやEコマースなど、同社が得意とする領域での知見をもとに、双方でアイデアを具現化するためのアドバイスや壁打ちを行いながらアイデアをブラッシュアップし、実現化に向けて共創する取組です。
B社の例
テクノロジーによってソリューションを提供するB社では、技術をもとにした新たなプロダクトやシステムを生み出す、アクセラレータープログラムを展開しています。同社が新事業創出のために必要なプラットフォームやAI技術などを提供し、新たな事業の早期創出を促しています。
金融業界の実績例
C行の例
大手銀行のC行が展開するアクセラレータープログラムは、事業化に向けた各種ステップに対して、当行グループのリソースをフル活用できるプログラムです。たとえば当プログラムには、ベンチャーキャピタリストやマーケッター、事業家、弁護士などあらゆる分野のエキスパートを外部メンターとして参画しています。
D社の例
ベンチャー企業への投資・支援を事業展開する、D社主催のアクセラレータープログラムは、業界最大規模の投資を受けられる点が大きな特徴です。また、同社を通したプログラム参加者同士のコミュニティやセミナーも開催しており、優秀な企業に対してアイデアの事業化を全面的にバックアップしています。
メーカーの実績例
E社の例
総合電機メーカーE社が展開するアクセラレータプログラムでは、事業創出・組織開発・人材育成の領域において、専任のアクセラレーターによる一気通貫型のサポートを受けられます。なお、当アクセラレータプログラムによって、生み出されたサービスの提供件数は200件弱存在しており(2022年4月時点)、一定の実績を出している点もポイントといえます。
F社の例
食品メーカーのF社が展開するアクセラレータープログラムでは、同社独自の素材や技術、ネットワークや販売チャネルなどのリソースとともに、伴走型での協業支援を受けられます。過去、当アクセラレータープログラムでの支援を受けた事業の中には、食に関するものだけでなく、ロボット開発や防災に関するプラットフォームの開発なども含まれています。
自治体の実績例
自治体Gの例
東北の自治体Gでは、新たなロールモデルとなる企業の創出およびエコシステムの構築を目的とし、新興企業および事業成長を支援しています。当アクセラレータープログラムでは、候補者の事業成長フェーズや状況に応じて、3つの支援プログラムを提供しています。
自治体Hの例
首都圏内の自治体Hでは、起業や経営者をめざす女性に向け、セミナーやメンタリング、コミュニティの提供等を通じて支援を行っています。すでに120件への支援を行っており(2022年4月時点)、多数の実績を残しています。
海外の実績例
以下は、海外企業で実施されたアクセラレータープログラムの例です。
I社の例
エンターテイメント領域を中心にサービス提供するI社。同社のアクセラレータープログラムでは、同社の技術やコワーキングスペース、ネットワークなどを提供し、テクノロジーとエンターテイメントの事業発展をサポートしています。
J社の例
インターネット関連サービスを提供するJ社は、昨今の情勢に伴い、オンライン上でのアクセラレータープログラムを展開。すでに市場的価値が見込まれているスタートアップ企業を対象とし、メンター制度やトレーニングプログラムなどを提供しています。
まとめ
めまぐるしい情勢変動や、技術力の急速な成長によって、世界はVUCAの時代を迎えています。企業側にもよりスピーディな成長と変革が求められるようになった今、アクセラレータープログラムは、まさに時代を生き抜く手段のひとつといえるでしょう。
最後に、もし当コラムを「自社の現状打破」を目的としてお読みいただいている場合は、打開のためのヒントとして、経営戦略の領域で知見のある第三者のアドバイスや力を借りてみてはいかがでしょうか。
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