株式会社豊田自動織機
- 売上:
- 1000億円以上
- 業種:
- 輸送用機器
人事
デジタル人材育成にプロ人材が参画!コーチングによる支援がデジタル活用事例の増加だけでなく、デジタル化への意識醸成にも貢献
デジタル人材育成室
- 井上 雅昭 氏
- 藤井 一史 氏
- 鈴木 由香 氏
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BEFORE導入前の経営課題
デジタル人材の育成においてデジタル技術活用の現場定着を高めるため、課題解決にフォーカスした『テーマ実践』を計画していた。しかし、デジタル活用においては、自社の強みや大切にしている考え方を活かして現場の課題を解き明かし、的確なアドバイスを行える人材がいなかった。
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AFTER導入による成果
ベテラン社員を対象にデジタル化のテーマ実践を導入。ベテラン社員がデジタル化の旗振り役として現場で活躍するようになり、デジタル化に対する理解が着実に広まった結果、幅広い部署でデジタル化への取り組みが進んでいる。
デジタル化を定着させるために、実践形式での取り組みを検討していた
トヨタグループの源流企業であり、世界40ヵ国・276拠点を通じて、繊維機械や産業車両、カーエレクトロニクス製品などの幅広い事業を展開する株式会社豊田自動織機。同社は2030年ビジョンとして「クリーン・ゼロエミッション」「安心・安全、快適」「スマート」をキーワードに掲げ、持続可能な社会の実現に向けた新たな価値創出に取り組んでいる。
そんな同社が時代の変化に適応するために注力しているのが、デジタル化の推進だ。これは既存の業務をツールに置き換えるIT化と異なり、業務の抜本的な見直しを目的としている。
デジタル化を推進すべく、同社はデジタル人材を育成するための座学研修を数多く実施してきた。しかし、座学だけでは現場に活かすまでには至れず、なかなか活動として定着しなかったという。そこで同社は現場が抱える課題にフォーカスし、仮説・検証によって解決策をデモンストレーションする『テーマ実践』という取り組みを計画していた。
しかし、テーマ実践の詳細を詰めていくなかで、同社は問題に突き当たった。当時の課題感について、デジタル人材育成室の井上氏は「テーマ実践は現場が抱える課題に焦点をあてたプロジェクトであるがゆえに、あらゆる部署の課題解決を支援できないといけません。そうなると、幅広い分野に精通したプロ人材の支援が不可欠でした。」と語る。エンジニアリングチェーンやバックオフィスなど、幅広いポジションを対象にテーマ実践を検討していたことから、同社は特定の分野に特化したスペシャリストではなく、広範囲でのアドバイスができるゼネラリストを求めていた。
同社の相談を受けてHiPro Bizが提案したのは、データサイエンスによって多種多様なビジネス課題を解決に導いた実績を持つK氏だ。最終的にK氏を選んだ理由について、「当社は現場起点だけでなく、織機らしさというキーワードも大切にしていて、そこに共感いただけたのが好印象でした。社会の動きとしてこうするべきというフレームワークがあるのは理解しているのですが、トヨタグループで培われてきたノウハウや文化を破壊するのではなく、デジタルを使ってもっと良くしていきたいという想いがありました。そのうえで私たちの想いに寄り添っていただき、織機らしさにマッチするやり方を考えていただけたことが、支援をお願いしようと決めた理由です」と語った。
トヨタグループには、社是として受け継がれる豊田綱領がある。全5項目で構成される豊田綱領のなかでも、「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」という社祖・豊田佐吉翁の遺訓は、これまでトヨタグループの挑戦を数多く支えてきた。一方で、テーマ実践では自社の文化や風土を大切にしながら、デジタルを取り入れたいという想いがあった。だからこそ、同社は織機らしさというキーワードを重視したという。
かくして同社はK氏を迎え、デジタルを積極的に活用するための風土の醸成を目標に、支援プロジェクトがスタートした。
プロ人材から課題解決の気づきを得るきっかけとして、テーマ実践の相談会を開催
支援プロジェクトにおいて、同社がプロ人材と最初に議論したのは、豊田自動織機のデジタル化が見据える未来についてだ。革新的なイノベーションにつなげたいのか、あるいはデジタルを有効活用したいのか、目指すべき方向性によって打ち出すべき施策が変わってくるからである。この点について、同社はまず後者を選択した。
認識のすり合わせが完了した後は、カリキュラムの全体像について議論が始まった。この時点でカリキュラムの骨子はできていたものの、まず全体プロセスで修正すべき点がないかを確認し、組み立てを進めたかったという。この点において、プロ人材は同社のアイデアを活かしつつ、注力すべきポイントを具体化した。
デジタルは一度実践すれば完璧に身に付くというものではない。だからこそ、繰り返しのインプットが重要だ。反面、継続的な取り組みは参加者のモチベーション維持が難しい。これらの前提を踏まえて同社はプロ人材と協同し、枠組みに対して注力すべきポイントを設定しつつ、参加者のモチベーションを高めるために相談会でのMVP(Most Valuable Player)などの制度の活用を決めた。
そして、テーマ実践の具体的な運営方法としては、相談会形式での半年間(計10回)のプログラムが採用された。この相談会には「2週間に1回の実施サイクル」や「オープンな会場での個別相談スタイル」というプロ人材の提案が取り入れられている。
第1期のプログラム対象者には業務知識が豊富なベテラン社員が選出された。この背景には、相談会の成果を現場に持ち帰った際、職場のキーパーソンであるベテラン社員のほうが活動を広めやすいのではないかという考えがあった。
第1期の相談会では、誰もが初めてのテーマ実践ということもあり、手さぐりの状態からスタートしたという。プロ人材への相談事としては、「今の職場にデジタルをどう取り入れたら良いか」というテーマの大きい内容や、「こんなときはどうすれば良いか」というシチュエーション単位での内容が寄せられた。どちらも共通して、デジタルを現場で活用する具体的なイメージが描けていないようだった。
この状況下において、プロ人材は真価を発揮した。ベテラン社員の相談内容に対して、目的やゴール、ペインポイントやゲインポイントを問いかけて課題の粒度を整えていき、ネクストステップへの気づきを得るための交通整理を行ったのだ。「相談会は幅広い部署のベテラン社員が参加していたので、デジタルに対して知見のある方もいれば、Excelのマクロが分からない方もいて、出てくる質問もばらばらでした。そのようななかで情報を適切に整理しつつ、次に何をしたら良いのかというヒントを出していただけたことで、課題に対するベテラン社員の理解度が上がっていき、回を重ねるたびにより具体的な会話が繰り広げられるようになっていました」という。プロ人材がコーチングで気づきを与えていくことで、ベテラン社員がテーマ実践を主体的に考えるきっかけにもなったようだ。
当初はベテラン社員が自分たちより若いプロ人材に相談することが、心理的ハードルになるのではないかという不安があったが、相談会が進むにつれて、それは解消されていったという。「これほど幅広いテーマの相談事が寄せられるなかで、的確な回答を出せる方はなかなかいないと感じました。社内の常識にとわれない思考の柔軟性もあるとは思いますが、コーチングが的確で、呑み込みやすい内容だったのが良かったと思います。それが参加者にとっても、心理的安全性につながっていると感じました」と、同社は相談会の様子を振り返った。
テーマ実践の成果が現場に広がり、デジタル人材育成に対する意識の醸成に貢献
結果として、テーマ実践を目的に開催された第1期の相談会では、すべての参加者が成果を生み出し、現場に持ち帰ることに成功した。作業者の安全確認やお客様からの問い合わせ対応など、さまざまな業務のあるべき姿を実現するためにデジタルの知見を活用している。成功事例のなかにはデジタルの知識・経験がなかった方が、Excelのマクロ作成やローコード/ノーコード、人によってはプロコードでのアプリケーション開発を実現できるようになるまで成長したという。
成果の要因に関して、「今回は6ヵ月という限られた期間で、どこまで成果を出すかが重要でした。この場合、1人ひとりの課題に向き合い、適切に軌道修正できなければ、テーマ実践で期待した成果が得られません。この個別の課題にどう対応するのかという点において、私たちとベテラン社員だけでは上手くいかなかったと思います。そこにプロ人材の方が加わることで、足りない部分を補いながら三位一体となって活動できて、参加者も納得できる成果を生み出せたと感じています」と同社は語った。
第1期に参加したベテラン社員は、テーマ実践の成果を現場に持ち帰った後、デジタルの普及にも寄与しているようだ。業務効率化だけでなく、職場のデジタル化推進の旗振り役として活躍する方もいる。また、これまで「あったら良いね」で終わっていた会話が、デジタルの知識・経験を持つベテラン社員の存在により、具体的な解決策の立案や実行に踏み切れるようになった。
さらに現場で困り事が生まれた際は、相談会に戻ってきて、そこで得た気づきを現場に持ち込むというサイクルが生まれている。この相談会を行き来するサイクルのおかげで、デジタルの活用事例は着実に増加しているようだ。
そして、デジタルによる成果物が増えたことで、現場のデジタル人材育成に対する理解が深まり、デジタルに対する意識の醸成にも役立っている。この結果を受けて、ベテラン社員向けの第2期・第3期が立ち上がり、2022年10月には若手社員向けの第1期もスタートした。
今後はさらなるデジタル化を推進すべく、同社は現場のニーズに合わせて、チャレンジの機会を提供するための体制づくりに注力していく。そのための取り組みとして、デジタルを楽しむことが重要だと同社は考える。「従業員がデジタル化を自分事として捉え、主体的なアクションを起こしていくには一定のモチベーションが求められます。デジタル化を全社に広めていくには、チャレンジの機会を増やすだけでなく、従業員が楽しんで取り組めるかが大切です。それが結果的にデジタルを議論する現場を増やし、変革の輪を広げていくと考えています」とデジタル人材育成室の3名は今後の展望を語った。
組織文化を大切にしながら、今後も同社のデジタル化に向けた取り組みは続いていく。
- 企業名
- 株式会社豊田自動織機
- 設立
- 1926年11月18日
- 従業員
- 74,887名(2023年3月31日現在)
- 売上
- 33,798億円(2023年3月期)
- 事業内容
- 繊維機械、産業車両、自動車・自動車部品の製造・販売
担当プロ人材より
豊田自動織機様の現場ベテラン層のデジタル化をリカレント的に支援することを目的としていました。その結果、社内でデジタル化の先端事例が生まれ、3期目に突入し新人若手層へも支援範囲が拡がりをみせています。
プロジェクトを進める中では、「現場を中心に考えること」と「一人ひとりに合わせた支援であること」を大切にしました。豊田自動織機様の皆さんは、その高い基礎力と学習能力、若手の意見を尊重する姿勢やフィードバックを丁寧に行っていただく点で大変感謝しており、一体感を持って取り組めたからこそ、様々なことが達成できたのではないかと思います。その中でも、これまでデジタルに一切触れたことがないベテランの方が、短期間で若手のデータサイエンティストを複数名率いるようにまでなったことは強く心に残っております。
引き続き、共に、豊田自動織機様らしいデジタル化に貢献していきたいと思っております。
登録プロ人材 K氏 製造業のDX化やデータサイエンス・AI開発を中心に支援。これまでにデータを用いた製薬、医療、金融、テレビ業界等で営業、人事、経営管理、データ基盤構築や治験・資産運用モデル開発など多岐に携わる。2021年に法人を設立する。2018-2023年、大学で統計学の講師も勤める。