株式会社東京ノッズル三崎製作所
- 売上:
- その他(非上場・非公開)
- 業種:
- 機械・電気製品
経営全般・事業承継
SDGsの自社のポジショニングを言語化し、2030年の経営ビジョンに向けた実行計画を策定。社内外への情報発信準備が整う
- 笠倉 正信 氏
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BEFORE導入前の経営課題
自社の取り組みや目指すべきビジョンについて、SDGsを軸に可視化しようとした際、事業との関連付けやアウトプットイメージが分からず、身動きが取れない状態だった。又、神奈川県と広島県にある2つの事業所が同じ熱量で同時に取り組むべき手段を模索していた。
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AFTER導入による成果
バックキャスト思考の活用により、2030年にあるべき企業像から逆算し、事業とSDGsの紐づけや重要課題(マテリアリティ)の特定を通じて、具体的な実行計画を策定。広報コンテンツの発信準備が整うだけでなく、組織のあり方を見直すきっかけとしても機能した。
任せっきりにならず、会社として自走するきっかけを求めていた
船舶のディーゼルエンジン噴射装置とガバナ(調速機)の再生整備事業を中心に、高品質なメンテナンスサービスを提供する株式会社東京ノッズル三崎製作所。同社は企業価値の向上を目的に、SDGs(持続可能な開発目標)を起点としたアウターブランディングの強化を計画していた。
2015年に国連サミットで採択されたSDGsは、ESG投資やカーボンニュートラルなどの後押しを受け、メガトレンド化しているキーワードだ。近年では企業がSDGsをパーパスやCSR(企業における社会的責任)と結びつける動きも生まれており、ステークホルダーに対する共感材料としても機能している。一方で、SDGsは世界共通の目標であるがゆえにスケールが大きく、事業との結び付けが難しい。
当時の課題感について、代表取締役の笠倉氏は「もともとは2年ごとに開催される海運産業向けの展示会の営業ツールとして、SDGsを組み込めないかと考えていました。でも、SDGsというキーワードは認知していましたが、細かい部分まで理解が及んでおらず、『SDGsと事業をどう結び付けたらいいのか』や『どんなアウトプットが効果的なのか』といった部分がイメージできていませんでした」と振り返った。
シンクタンクへの依頼も検討したものの、かながわSDGsパートナーの認証を獲得するなど、予算的にも話が大きくなってしまい、現実味を感じづらかったという。しかし、これをきっかけに自社なりのSDGsを組み込むことの目的を、同社は強く意識するようになった。
SDGsは2030年を達成年限としているが、掲げられている17の目標は持続的なものであり、2030年で完結するものではない。だからこそ、笠倉氏は時代の変化に合わせて適切な判断を下すためにも、まず自分自身がSDGsを理解することが必要だと感じた。
そこで白羽の矢が立ったのが、HiPro Bizだ。「SDGsを学びながら、やるべきことを決めていきたい」という同社の要望に対してHiPro Bizが提案したのは、SDGsの基礎理解を得意とし、働き方改革やサステナビリティ経営にも精通しているU氏。「社外だけでなく、社内に対しても想いを持たれている方で、話を聞いているうちに、SDGsが営業ツールだけでなく、社内向けにも効力を発揮できるんじゃないかと感じて。その気づきを得たことが大きかったと思います」と、同社はU氏の印象を語った。
そして、同社はU氏を迎え、「SDGsと自社事業の関連付け」や「重要課題の特定と優先順位付け」を行い、具体的な実行施策を社内外に公表することを目標に、プロジェクトがスタートした。
複数のフレームワークを活用し、SDGsに対する自社の貢献内容を選定
SDGsと事業の関連付けを行うにあたって、U氏は課題認識の共有化としてバックキャストの重要性を説いた。バックキャストとは、未来像から逆算してアクションを決める発想法で、過去や現在を起点として未来を予測するフォアキャストと対をなす言葉だ。
SDGsは2030年という明確なラインが設定されている。だからこそ、2030年の目標を実現するために自社がどのような役割を果たすのかを考えるうえで、バックキャストは相性が良い。そこで同社は、バックキャストで課題を整理するために、次の4つのカテゴリで2030年の企業像を思い描いた。
● 商品・サービス
● 組織・風土
● 人・働き方
● 市場・顧客
笠倉氏と役員の2名で意見を出し合ったものの、最初は抽象的な企業イメージしか書けなかったという。この解像度を上げるためにプロ人材とディスカッションで視野を広げていき、内容をブラッシュアップしていった。
将来像がある程度まとまった後は、外部環境の調査が始まった。具体的には自社の事業に絡む経済・社会・環境がどのように変化していくのかいう未来予測について、他社のデータベースを活用し、関連の記事やレポートのリストアップが行われた。
「他社のデータベースを活用するためには、キーワードを打ち込む必要があるのですが、このキーワードに対する気づきを得られたのが良かったと感じています。働き方やBCPなどのキーワードに対して、自分なりの情報は持っていても、それがプロ人材の語る内容とイコールにならないこともあります。その違いが分かって、見えていなかった部分が見えるようになってきたことで、今の会社に何が必要なのかを同時に考えることができました」と、笠倉氏は語る。プロ人材の存在は、企業イメージをより多角的に考えるきっかけにもなったようだ。
外部環境の調査で事前に描いた将来像と未来予測のギャップが明らかになり、事業活動の継続に必要な対応とその期限が明確になった。ここで判明した課題を、SGDsウェディングケーキモデルという図式化の手法でラベリングし、SDGsとの関係性を可視化していく。
次は、これらの課題を事業プロセスに落とし込み、どの課題から優先的に取り組むべきかを決めなければならない。その解決策として、プロ人材が提案したのがバリューチェーンマッピングによる影響度の確認と、重要課題(マテリアリティ)の特定だ。
バリューチェーンマッピングでは、SGDsウェディングケーキモデルで整理した内容を、バリューチェーン上に落とし込んだ。バリューチェーンのプロセス単位で整理された情報に対して、正の影響と負の影響を明らかにすることで、会社として注力すべきポイントを可視化した。
重要課題(マテリアリティ)の特定では、これからの経済・社会・環境の変化を理解したうえで、2030年の企業像に向けて何から着手すべきかを決めた。具体的には自社の課題を経済・社会・環境のカテゴリで整理し、以下の2軸で解決すべき優先順位を付けていく。
● 社会にとっての重要度
● 自社にとっての重要度
これらの取り組みによってSDGsの17の目標に対し、同社がどの目標達成に向けてどのような貢献をすべきかがまとまり、ネクストステップとなる具体的な実行計画の策定につなげた。
SDGs活動の策定が社外ブランディングだけでなく、組織改善のきっかけになった
本プロジェクトでの取り組みを通じて、同社のSDGs活動は言語化された。具体的な実行計画に基づいた重点目標も設定し、次の3つを掲げている。
● 2030年までに社内マイスターを社員の50%以上にする
● ワークライフバランスを実現しメリハリある働き方を誰もが実践できる職場
● 環境配慮型(アンモニア等)エンジンの修理実績比率20%以上を目指す
社内マイスターとは、ドイツ発祥のマイスター制度をアレンジしたもので、同社が半世紀以上にわたって培ってきたメンテナンス技術を継承するための仕組みだ。技術の習熟度などに応じてマイスター認定を実施することで、従業員のモチベーションを保ちながら、後進育成と品質向上を両立することが目的となっている。
これらの内容は広報コンテンツとしても制作され、ホームページに掲載された。ホームページの情報は当初の目的であったアウターブランディングとしての活用だけでなく、インナーブランディングとして社内の従業員にも展開されている。
プロジェクトの成果に対して、笠倉氏は「当初は展示会での活用という社外の視点のみで考えていたのですが、プロ人材の方と話を進めていくうちに、組織として見直すべき部分を見つける良いきっかけになったと感じています。特に従業員のエンゲージメントを高めるために何ができるのかを考えることができたのは、本プロジェクトのおかげです。これまでは業績が良ければ特段動かないという考え方が当たり前だったので、2030年までにこうしたほうが良いという視点や思考を取り入れることで、大事なことや取り組むべきことが見えてきて、具体的なアクションを描けるようになったのは大変ありがたかったですし、勉強させていただく機会も多かったです」と語る。
また、本プロジェクトは笠倉氏と役員の2名体制で進めたが、2人の意見が一致しないケースもあれば、2人ともの意見がずれているケースもあったという。このとき、プロ人材の支援が大いに役立ったそうだ。当時のディスカッションについて笠倉氏は、「2人の意見を上手くまとめてくれるのもそうですが、個人的には軸をぶらさずに進めてくれたのが良かったと感じています。SDGsを考える際、どうしても前提条件にしばられて枠内で答えを出そうとしてしまっていて、プロ人材の方が目的や価値をぶらさずに太くしていく軸思考で進めていただけたおかげで、結果的にいろいろな発見を生んで、答えを導き出してくれたと感じています」と振り返った。
今後の取り組みについて尋ねると、笠倉氏は一体感というキーワードを挙げた。「SDGs活動を2つの拠点(神奈川本社工場・広島工場)で同時に取り組むことにより、従業員一人ひとりが深くかかわることで、会社の立ち位置や方針が分かる材料になるでしょう。そして、これからの技術的・環境的な課題について、みんなで考えるきっかけにしたいとも思いました。従業員の意見を積極的に取り入れて良い職場になると、良い仕事ができるようになって、結果的に会社にとっても、SDGsにとっても良い影響を生んでくれる、そんなサイクルをつくりたいと考えています」という。
SDGsの目標達成に向けて、同社の活動はまだ始まったばかりだ。来るべき2030年に、同社の描いた企業像が実現していることを期待したい。
- 企業名
- 株式会社東京ノッズル三崎製作所
- 設立
- 1967年11月
- 従業員
- 45名
- 売上
- 非公開
- 事業内容
- ディーゼルエンジンの燃料噴射関連装置の修理・メンテナンスならびに関連部品の修理・販売・機械加工
担当プロ人材より
最初に笠倉社長と面談をさせて頂いた際に「もしかしたら、我が社は一番SDGsに向かない会社かもしれない。」とおっしゃったことが印象的でした。そうおっしゃりながらもなぜ今回SDGs(サステナビリティ方針策定)に取り組もうと考えられたのか、この取り組みでどのような変化を実現していきたいのか、しっかり考えられている方でしたので、実際のご支援では私はとてもやりやすく進めさせて頂きました。
ご支援の中では、出来るだけわかりやすくお伝えしていくこと、ツールなど材料はご提供するけれど、大事な中身はプロジェクトメンバーのディスカッションの中から「答え」を出して頂けるようすることを意識して取り組みました。次回ミーティングに向けた宿題をお願いすることもありましたが、毎回必ず期限までに実施して下さり、この取り組みに対する真剣さが伝わってきました。今回は私にとっても非常に学びが多く、やりがいのあるお仕事でした。
登録プロ人材 U氏 金融の大手企業やマーケティング系企業にて人材開発、ダイバーシティ推進、働き方改革などを担当。2018年よりフリーランスとして独立。SDGsに関するビジネススクールにて資格を取得し、中堅・中小企業を対象とするサステナビリティ経営の導入支援を行っている。また組織における個人のキャリア開発支援にも取り組む。