三和ハイドロテック株式会社
- 売上:
- 100億円未満
- 業種:
- 機械・電気製品
営業
与信管理規定の大胆改定。海外市場におけるリスクヘッジで新規販路開拓のスピード感が飛躍的に上昇
株式会社
- 取締役 営業本部 本部長
矢作 圭 氏 - 海外営業部
酒井 容子 氏
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BEFORE導入前の経営課題
海外事業を強化するうえで、代理店の新規開拓と既存顧客のシェアアップが不可欠だったが、そこには売掛金が確実に回収できるかなどの信用リスクがあった。そのリスクを抑止するため、各営業担当者は新規販売代理店との口座開設時に慎重なやりとりが求められ、本来の営業活動に注力しにくい状況が発生。営業の効率化が大きな課題になっていた。
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AFTER導入による成果
海外の企業審査などに詳しいプロ人材が参画し、評価指標を策定して代理店をランクづけするなど、海外市場に対応するための与信管理規定を改訂。与信管理の指標に評価基準という新視点を加えたことで、営業個々の判断基準が明確になり、本来の営業活動に専念できるようになった。
海外販路開拓への大きな期待とそれに伴う売掛金未回収リスクのジレンマ
創業90年、大阪に本社を構える三和ハイドロテック株式会社は金属製マグネットポンプなど主に産業用ポンプの製造・販売事業を展開している。近年、社内における海外事業の重要性が増す中、現地法人を保有していない同社は海外の販売代理店と組んで販路拡大に注力。今後、さらなる海外受注強化のためにも、代理店の新規開拓が欠かせない状態にあった。
しかし、新規開拓の対象となる代理店が必ずしもすべて優良企業とは限らない。中には経営実態を把握しづらい企業も存在し、そうした代理店と関わることは大きなリスクであり、自社にとって多大な損害をもたらす恐れもある。
そうした代理店を事前に見極めることが重要だが、日本とは言葉や文化、商習慣が異なる海外においては信用調査会社に頼ることも容易ではない。新規の代理店がどこまで信頼できるのかは、現場の営業担当者と代理店担当者のコミュニケーションに頼る属人的な状況に陥っていた。また、このような状況から、各営業担当者が代理店担当者と金額などの交渉を行う際、取引に適している代理店かどうか判断に迷い、上長の決裁を得るために判断を保留にするケースも発生し、営業上の効率面においても大きな課題感を抱えていた。
そこで、同社営業本部 本部長の矢作氏は、国内向け与信管理規定を海外にも通用するものに改訂したいと考えた。矢作氏は当時をこう振り返る。
「新規の代理店がどこまで信用できる会社なのか明確な判断基準を設けることで、現場が不安なく営業に専念できる環境づくりをしていきたいと考えました。しかし、社内には海外での与信管理に詳しい人間がおらず、新たな一歩が踏み出せていませんでした。
知り合いの商社やメーカーにもコンタクトを取り、与信管理規定改定にまつわる情報を得ようと試みましたが、海外向けに与信管理のルールを設定しているところは多くありません。なかなか欲しい情報を得られませんでした」
現場目線で得る多角的な評価ポイント。この視点ひとつが業務改善に大きく役立つ
そんな悩みを何とか解決したいと相談したのが、プロ人材による経営支援サービス「HiPro Biz」だ。
同社と「HiPro Biz」との付き合いは2021年に遡る。コロナ禍に就業規則を更新する際、社内リソースのみでの対応に思いのほか工数を要したため、外部人材の活用を検討した際、取引先である銀行から紹介されたのが、「HiPro Biz」だった。
この就業規則更新の支援を皮切りに、DX戦略立案支援、在庫管理体制の適正化支援と、計3つのプロジェクトにわたり「HiPro Biz」のプロ人材が参画。それぞれに、短期間でありながら明確な成果や手応えを実感していたため、今回もプロジェクト支援の相談に至った。矢作氏は語る。
「外部人材活用ではなく、あくまで社内での解決を、という声もありました。でも、自分たちで新たな情報や知識を吸収しようとしても、どれだけの時間がかかるか想像もつきません。海外の与信管理について知見が豊富な人材が外部にいるのなら、その人材に協力してもらい、与信管理規定を共に策定していく方がよほど効率的と考えました」
そんな中、「HiPro Biz」から提案されたのが、プロ人材のT氏だった。
T氏は、大手総合商社で長きにわたって審査部・リスクマネジメント部で管理業務に従事。海外駐在経験も豊富で海外取引での留意点を踏まえながらリスク管理システムを構築できる人材だった。
「なにより、朗らかで話もうまく、コミュニケーションがとりやすい人間性に魅力を感じ、この人なら適任だと思えました」と振り返り、参画することになったT氏について語る矢作氏。
T氏とともに与信管理規定の改訂プロジェクトを担ったのが、当時入社3年目だった海外営業部の酒井氏だ。商品の船積み手配をし、海外に輸出する業務を主務としていたため、営業にまつわる業務は未経験だったが、酒井氏はプロジェクトへ意欲的に臨んだ。酒井氏はこう語る。
「このプロジェクトの中でT氏の指導を受けながら与信取引やリスク管理に関する知識を身につけ、海外売上シェアを伸ばしていく基盤となる与信管理規定を作ることができました。
T氏のフレンドリーでありながら熱意あるお人柄のおかげで、コミュニケーションがとりやすく気軽に質問ができました。また、疑問や不安が解消されるまで質問を重ねても丁寧に温かくご対応くださいました」
T氏は酒井氏とのミーティングの中で三和ハイドロテックの現状の海外取引先や販売方法などを熱心に聞き取った。そして、まず行ったのは、営業担当者を集めてのワークショップの開催である。与信管理の基本知識を全体にシェアし、海外営業部の社員とは個別に直接会って、意見交換を行った。T氏は商社審査部時代の体験談も交えながら、常に与信管理という視点で物事をとらえる習慣を培っていった。
こうした習慣づくりをベースに、酒井氏とともに二人三脚で、海外営業部内の与信管理ルール策定に着手。さらに、代理店をランク付けする評価基準の作成にも取り掛かった。明確な評価基準があることで、海外の代理店の信用性を担当者以外の全社員と共有できる。これにより、取引をするかどうかの判断を見誤らずに済むことだけでなく、スムーズに取引先の選定ができるようにもなる。
精度の高いランク付けを行うための観点は多角的だ。取引年数や決算書を出しているか否か、支払いの遅延がないか、担当者の表情や話しぶりなどの印象、外部の信用調査があればその情報、業界内での評判など、多岐にわたる項目に点数をつけ、ていねいにスコアリング化していった。
このスコアリングの際、T氏が重要視したのが、同社の営業担当者と海外代理店とのコミュニケーションだ。営業担当者に代理店への定期的な訪問を促し、会社全体の雰囲気をよく観察することを徹底して現場に求めた。事務所の様子やエントランス、トイレや駐車場、さらにすれ違う際の従業員のあいさつはどうか?に至るまで、訪問を重ね常に変化をキャッチできるように臨むことが重要だとアドバイスした。
与信管理規定の改訂がもたらした、大きな成果と思わぬ副次効果
プロジェクト開始から4か月が経過し、海外に対応した与信管理規定の改訂と代理店の評価指標が完成した。
スコアリングの結果、例えば代理店S社が要注意となるCランクであった場合、この受注金額以上は部長決裁を必須とする、といった社内における明確な基準ができた。これにより、現場担当の裁量範囲も明確化し、社員は安心して本来の業務に専念できるようになり、結果として営業全体の効率向上につながった。
T氏とのプロジェクト終了以降も、営業担当者は代理店を定期的に訪問するようになり、そこで感じた従業員の印象や事務所の雰囲気などをシートにまとめ、酒井氏に提出。情報を密に共有している。直接訪問できないときもWebを通じて積極的にコンタクトを取るよう試みるなど、各営業担当者の意識も着実に変わっていった。
「直感を磨き、定量で補う」。
ある日T氏から営業担当者に伝えられた言葉だ。酒井氏はこの印象的な言葉を今でも覚えている。
定量情報は、ある時点での評価であるため、鮮度のある定性情報を取得する上で日々のコミュニケーションの中での“気づき”や“変化”をキャッチするアンテナを常に張り巡らせる必要がある、というものだ。各営業担当者は、このT氏の言葉を胸に、日々代理店とのコミュニケーションを深めている。
矢作氏は、今回のプロジェクトを通じ、改めてプロ人材の活用について振り返る。
「企業が成長するために必要となる要素は、刻一刻と変化しています。しかもそれは、ニッチなものであることも少なくありません。一方で成果を出すために何年もかけることはできず、タイムイズマネーと考えています。
外部人材との協働は、メンバーの大きな刺激となり、停滞感の打破にもつながると思います。他にも自分のスキルを客観的なはかりで測れるなど教育的メリットも多く、『HiPro Biz』は私たちにとっては大変ありがたい存在です」
今回のプロジェクト成果を受けて、当初、社内の一部で懐疑的だった外部人材活用への抵抗感はなくなったという。
その一方で、与信管理改訂はできたものの、現在は試験運用の段階。実際の現場で出てきた課題点を酒井氏は常に整理し続けている。1年後には微調整が必要になると想定し、その時にはまた再びT氏に協力を要請するつもりだと話した。
与信管理規定の改訂を通じ、海外における営業現場で個々の担当者がスピーディかつ確実に判断できるようになっただけでなく、T氏との出会いによって、営業担当者それぞれが常に現場での“気づき”や“変化”をキャッチするマインドチェンジにも繋がった本プロジェクト。
新規販路拡大に伴うリスクを見極め、そのリスクに対応し、海外でのビジネスを大胆に展開する。その礎ができあがった大きな出会いになったと言えるのではないだろうか。
- 企業名
- 三和ハイドロテック株式会社
- 設立
- 1934年9月
- 従業員
- 129名(2024年3月現在)
- 売上
- 32.8億円(2023年12月実績)
- 事業内容
- ステンレス鋼製マグネットポンプ、他ポンプの製造・販売
担当プロ人材より
何度か本社事務所にお邪魔して感じたのは、メーカー様の雰囲気を持った会社様でありながら、矢作様の個性もあってかどこか商社的な販売会社の雰囲気も持ち備えており、新しいことに果敢にチャレンジされていく気風を強く感じました。
通常、メーカー様は与信管理には縁遠い存在の業種でありながら、売り成約という切り口で、新しいリスク管理のルール作りに前向きな姿勢を強く感じ取れたのは、支援する側として大変勉強になりました。
本プロジェクト遂行の過程で酒井様からのサポートは極めて大きく、実直な業務態度に非常に感銘を覚えました。支援の中で心掛けた点としては、メーカー様としてはあまり普段馴染みのない与信管理について、理解を少しでも深めて頂く為に、途中で本社に伺いミニ研修を開催させて頂くことで、距離感を少しだけ縮めることができたのではないかと自負しております。
登録プロ人材 T氏 1990年4月に丸紅に入社し、計30年間に亘り首尾一貫して管理部門畑を歩む。バブル崩壊後の経済環境下、数多くの倒産事例に遭遇、貸倒回避や貸倒損失の軽減を成し遂げ、陰ながら会社の業績の下支えに貢献。営業担当と共に「常に動く」「攻める審査」を標榜、現場主義が徹底した昭和の名残を残す数少ない審査担当上がり。2020年3月に都内で個人起業。