大倉工業株式会社
- 売上:
- 100億円~1000億円未満
- 業種:
- 化学
人事
人事評価制度の大刷新プロジェクト。紙からタレントマネジメント導入やジョブ型など「運用」に魂を込めた改革―大倉工業株式会社
総務・人事部長
- 小山 真弘 氏

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BEFORE導入前の経営課題
2021年に経営ビジョン「Next10」(2030)を策定し、新製品開発やM&Aなどの新たな成長目標を打ち出した大倉工業。ビジョン実現に向け、人事評価制度の再構築も重要テーマとなっていた。しかし同社では制度設計や運用の専門知識が不足し、人事部門の人的リソースも限られている状況。プロジェクトを円滑に進めるための打ち手が求められていた。
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AFTER導入による成果
複数の大手製造業で制度設計やタレントマネジメントの経験を有するプロ人材・H氏を迎え、人事評価制度の再構築プロジェクトが本格始動。従来の等級制度や評価制度の見直し、タレントマネジメントシステムの導入サポートなどに加え、新たな制度を運用するための社内研修プログラムもH氏が担当している。評価、賃金、教育など一連の人事制度基盤が完成し、H氏との関わりを通じて人事部門メンバーの育成にもつながっている。
知見も人的リソースも不足する中で動き出したプロジェクト

暮らしに必要不可欠な包装用プラスチックフィルムの製造をはじめとする合成樹脂事業、スマートフォンやテレビに使われる光学フィルムなどの製造を手掛ける新規材料事業、住宅や家具の材料を販売する建材事業など、大倉工業は幅広い領域で成長を続けている。
2021年には経営ビジョン「Next10」(2030)を策定し、新製品開発やM&Aなどの新たな成長目標を打ち出した。既存の事業にとらわれない非連続の成長を目指す中、経営トップからは「人事評価制度も再構築する必要がある」と指示が出たという。
「改訂前の人事評価制度は数十年前に構築したものを受け継いでおり、このままでは事業成長に寄与できないのではないかと危惧していました」
総務・人事部長の小山真弘氏はそう振り返る。
以前の制度は個人の評価に偏っている側面があり、組織で成果を出すことに力点が置かれた新たな成長戦略を支えきれないのではないかと考えていたのだ。また、制度の内容だけでなく、紙ベースの運用が続く状況も見直す必要があると感じていた。
とはいえ、数十年にわたり大規模な制度改訂を行っていない同社では、制度設計や運用に関する専門知識を持つ人材がいなかった。人事部門の人的リソースも限られている中、人事評価制度再構築プロジェクトのリーダーを担うことになった小山氏は、外部の知見を取り入れたほうがよいと考えるようになる。
「社外の知人から紹介してもらい、『HiPro Biz』の存在を知りました。『HiPro Biz』からは今回の課題に対して知見がある複数のプロ人材を提案いただき、面談を実施し、当社に適したプロ人材とつながることができました」
「現場での運用」に長けているからこそプロ人材を頼った

本件を支援したH氏は、複数の大手製造業で制度設計やタレントマネジメントのプロジェクトを手掛けてきたプロ人材だ。
小山氏は「素晴らしい知見やご経験があることはもちろん、気さくな人柄で、私たちにとって『相談しやすい人』であることも選定の決め手だった」と語る。
最初の段階では、プロジェクトを進めるにあたってどこから手を付けていいかわからない状態だったという。小山氏から率直に相談を受けたH氏は、「まずは今の課題認識をそろえましょう」と応じ、丁寧にフレームに落とし込みながら、取り組む内容を明確にしていったという。
「当社の弱みや甘さをはっきり指摘してくれたことも印象に残っています。プロジェクトが遅れそうなときも、H氏は『このままじゃ間に合いませんよ』と私たちを鼓舞してくれました。リーダーである私が今回のプロジェクトで最も困難に感じていたのは、社内に制度構築や運用を相談できる相手がいなかったことです。その意味でH氏の存在は本当に大きく、人事部門メンバーの教育にもつながるはずだと期待していました」
ただ、人事評価制度は企業の根幹であり、一般的には外部に秘匿される部分も大きい。社外のプロ人材の力を借りて人事評価制度の再構築を進めることに対して、社内で反対意見や懸念の声はなかったのだろうか。
この疑問に対し、小山氏は「当社にはもともと、外部のコンサルティング会社を頼ることに少し後ろ向きな風土があった。今回の取り組みについても懸念を持つ人はいたはず」と打ち明ける。
過去には研修を強化するために外部コンサルタントに頼ったこともあったが、制度や講座内容などを見直すだけの取り組みでは成果が一時的で、定着には至らなかったからだという。
「その場限りの取り組みではなく、運用フェーズに魂を込め続けることが重要なのだと学んだのです。だからこそ今回は知識を提供してもらうだけではなく、現場での運用を熟知している人事のプロからのアドバイスがほしいと考えていました」
過去の失敗をくり返さないためにも、外部のプロ人材と組んで現場を変えたい——。リーダーの本気度は経営層にも伝わり、プロジェクトは本格的に動き出していった。
人材タイプを再定義。「最適な外部人材」を高待遇で迎える準備も

2021年4月1日に本格始動した、大倉工業における人事・評価制度の再構築プロジェクト。
まず取り組んだのは、自社の現状の棚卸しを行い「大倉工業にはどんな人材がいるのか」「どんな風土があり、それをどのように変えていかなければならないのか」明確にすることだった。
その上でH氏は、これからの大倉工業に必要な人材タイプを3つに整理した。「マネジメント人材」と「プロフェッショナル人材」、そして「イノベーション人材」だ。プロジェクトメンバーは、それぞれの人材にはどんな要素が求められるのかを洗い出し、評価項目に落とし込んでいく。
マネジメント人材には「組織力」や「チームワーク」を、プロフェッショナル人材には「チャレンジ」や「エンゲージメント」をキーワードとして置き、評価の配分を設定。結果に対して評価する賞与はもちろん、未来に向けた再現性を評価する昇給の制度も見直していった。
さらに、これまでにはなかった「イノベーション人材」の処遇の明確化も重要なポイントだったという。
「新しいことに挑んでいく上では、自前で育てるだけではなく、求めるスキルや経験を持つ人材を新たに採用することも重要となります。ただ、現従業員の評価制度に則っていると最適な人材をうまく評価できず、採用時に高い給与を提示することもできません。そこで現従業員向けの制度とは切り分け、ジョブ型雇用の要素を持たせ、市場に合わせて処遇を決定できるようにしたのです」
タレントマネジメントシステム導入で評価運用を刷新、管理職の意識も変える

小山氏が強くこだわっていた運用面も、H氏のアドバイスによって改革が進んでいった。
従来は紙ベースで管理していた評価運用を変えるため、H氏の実務経験をもとに外部のタレントマネジメントシステムを導入。評価制度の変更にあたり、以前は年1回だった上司や部下の面談機会が年5回に増加しており、面談の実施記録もシステムで残せるようになった。また、部署間異動が発生した際にも、前任部署での評価や目標設定内容を一元管理して引き継げるようになった。
こうした運用上の変化に対し、現場からの反発が生じることもある。そこでH氏は課長以上の管理職層全員を対象とした「評価者研修」を実施した。
「新しい評価制度を理解してもらうことはもちろん、H氏からは『評価制度は、評価するためではなく人を育てるためのもの』という目的意識も伝えてもらいました。現場で戸惑いがちな面談の進め方や、新たなタレントマネジメントシステムの活用方法などもレクチャーしてもらい、上司側のスキルアップにつながっています」
研修後に行った参加者へのアンケートでは、約95%が「満足」「非常に満足」と回答。ある部長からは「これまでに受けた研修で一番良かった」という感想も聞かれたという。新たな人事評価制度に対しても、ポジティブな声が多数を占めるようになった。
こうして、プロジェクト始動から約1年をかけ、評価、賃金、教育など一連の人事制度基盤が完成するとともに、運用を支える体制も整ったのだった。
戦略的なプロジェクトを経験し、人事の若手メンバーから前向きな声が上がった

人事評価制度再構築プロジェクトが一定の成果を見た後も、小山氏とH氏のパートナーシップは継続している。人材育成や女性活躍、シニア活躍など、相談するテーマは多岐にわたるそうだ。「人事の立場では社内で相談できないことが多く、経営層にも人事経験者は少ない。その意味で、頼れる相手ができたことは本当にうれしい」と小山氏は話す。
当初期待していたように、H氏との関わりは人事部門メンバーのスキルアップにもつながっている。従来、人事部門は管理的な業務に追われることが多く、戦略的な人事に取り組める体制をつくることが長きにわたる課題だった。とは言え、人事メンバーが急に戦略的な思考になれるわけではない。
今回の取り組みはそんな状況にも風穴を開けた。人事評価制度の再構築という戦略的なプロジェクトに携わり、システムを通じてさまざまなデータを分析する中で、人事の若手メンバーからも「こんな取り組みをしたい」といった声が続々と上がるようになったのだ。
「制度ができただけではなく、さまざまな面で効果が生まれている。人材育成も含めた有効な投資となった」と小山氏は手応えを語ってくれた。
大倉工業では今後、将来的に必要な人材ポートフォリオと現状の人材ポートフォリオとのギャップを埋めるための戦略策定にも取り組んでいく計画だという。人事への深い経験や知見、現場を動かす運用の力を兼ね備えたプロ人材の存在は、これからも大倉工業の成長を支え続けていくはずだ。
- 企業名
- 大倉工業株式会社
- 設立
- 1947年7月
- 従業員
- 1,891名 / 単独:1,039名 (2024年12月31日現在)
- 売上
- 811億円(2024年12月期)
- 事業内容
- 各種ポリエチレン製品及びポリプロピレン製品の製造販売、光学機能性フィルム等の製造販売、パーティクルボード、加工ボード及び加工合板等の製造販売、木材加工、宅地造成及び建物建築の販売
担当プロ人材より
小山さんのリーダーシップが本当に素晴らしく、人事制度の改定、そしてその後の現場への浸透までしっかりとつながっていったのだと感じています。また、人事の皆様も情熱的で、組織の未来を真摯に考えられている素晴らしい方々でした。人事制度の改革は会社の未来に直結し、それには多くの労力や社内での推進、協力体制が必要です。大倉工業様ではその体制をしっかりと築いていただけたので、改革を推進することができたと思っています。
登録プロ人材 H氏 大手自動車メーカーでの人事経験(海外、国内)を活かし、2019年6月に会社設立。人事制度構築やタレントマネジメントシステムの導入による従業員情報の可視化と適材適所の実現など、人事領域におけるテクノロジー活用を推進。人事制度設計と連動した労務費削減と労働生産性の向上を得意とする。