名古屋鉄道株式会社
- 売上:
- 1000億円以上
- 業種:
- 公共サービス
新規事業
生成系AIの活用推進をプロ人材が全面的に支援。グループ横断で業務や業種に特化した新たな活用方法の可能性を模索し、更なる業務効率化を目指した。
- 課長(当時)
壁谷 知宏 氏 - 担当員
山田 敏大 氏
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BEFORE導入前の経営課題
生成系AI「ChatGPT」の登場により、本社およびグループ各社から現場実務への活用に関する問い合わせが増加。これを受け生成系AI利用に関するガイドラインを策定する一方、セキュアなSaaS型生成系AIの社内実装を開始した。財務管理やマーケティングなど社内実務における活用が促進された一方、その活用に関する基本知識把握や応用の可能性に関する知見不足などの課題感が顕在化。またこの分野にあかるい人材が社内にいなかった。
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AFTER導入による成果
生成系AI/ChatGPT研究家としてChatGPTの基本を解説する書籍を執筆するほかYouTuberなど多彩な顔を持つプロ人材がプロジェクトに参画。全4回にわたるワークショップの企画設計から進行、検証までを一貫して担う。本社・グループ各社の社員22名が参加し、生成系AI活用の基本・応用スキルなどの知識を吸収したほか、最終的には参加者全員が1人1案の合計22案、業務における活用アイデアを発表。アイデアの多くはその後の実業務に活用され、更なる業務効率化に繋がっている。
さらに一歩踏み込んだ活用を。ChatGPTの可能性追求に不可欠だった、専門家の存在
愛知県・岐阜県を基盤に、鉄軌道事業と不動産事業を展開する名古屋鉄道株式会社。「名鉄」の愛称で親しまれ、「名鉄グループ」は同社を中核に子会社115社、関連会社21社で構成される(2023年3月末現在)。
間もなく創業から130年を迎える老舗企業でありながら、2023年7月にAIチャットボット機能を使った遺失物問い合わせサービスの提供を開始するなど、同社ではデジタル推進部を中心に、デジタル技術の業務活用に柔軟かつ積極的に取り組んでいる。またコロナ禍によってリモート環境の整備やデジタル技術の活用が求められたことも、デジタル推進を加速させる要因となった。
そんな同社では現在、生成系AIの業務活用を推し進めている。始まりは2022年11月。生成系AIの一種である「ChatGPT」が登場し、メディアでの注目度に比例して本社およびグループ会社から「社内業務に取り入れたい」との相談が多く寄せられるようになった。
デジタル推進部の壁谷氏によると、同部としても世間的な関心の高まりに対し、生成系AIが業務効率化に寄与できるのではと大きな期待感を持ったそうだ。
「一方で、新しく登場したデジタル技術が本当に安全なものか冷静に検証する必要性があるとも感じました。生成系AIを活用することで、機密情報の流出や著作権などを侵害する可能性もありますし、内容の十分な検証・裏取りも欠かせません。社内やグループ会社からの要望に応え、新しい技術の可能性を広げるためにも、まずは安全に利用できる環境を整えることが第一と考えました」
同社では2023年5月に生成系AI利用に関するガイドラインを策定、グループ各社には生成系AI導入可否判断を委ね、導入する際にはガイドラインを作成するようアナウンスした。同年7月には法人向けChatGPTサービスを導入。グループ会社にも展開し、当初、約200人の希望者にアカウントを付与した。
導入後は、名鉄グループにおける生産性向上、業務効率化に対する有効性の検証にも着手。検証により、導入から約半年間でユーザー数も400人まで拡大し、大幅な業務時間削減が実現したとの結果が示されたという。他にも、利用者間で活用アイデアを共有できる環境を構築。若手社員を中心に集まったアイデアは、議事録の要約やスライド資料作成、HTMLの修正など多岐にわたり、部署の垣根を越えて共有できるようになった。
だが、その一方で当時の課題感を壁谷氏はこう語る。
「この頃から、財務や人事など特定の職種、あるいはバス事業やホテル事業など業種に特化した使い方も検証できるのではという期待が一層高まってきました。
ただ、さらなる活用となると、自前では限界があると感じていました。ChatGPTの活用にはどんな可能性があるのか?そもそも生成系AIは社会でどのように活用されているのか?もっと知見を蓄えないと、当社の業務によりフィットした活用や、お客さま向けサービスなどへの応用に関するアイデアは創出されないと感じたのです。さらなるステップアップには、この分野に精通した専門家の力が不可欠でした」
柔軟な発想と活発な意見交換が育んだ、生成系AIにおける新たな成果
生成系AIの専門家と出会うため、同社は以前から人材紹介などで関わりのあったパーソルキャリアを通じ、プロ人材による経営支援サービス「HiPro Biz」に相談。ここでの課題感や要望を受け、「HiPro Biz」は複数の専門家を提案した。
「経歴や専門性、人柄などさまざまな候補者をご提案いただけたことで、当社が求める人材とは何かを今一度考えることができました」と壁谷氏は振り返る。
最終的に参画が決まったのは、生成系AI/ChatGPT研究家でありChatGPTの基本を解説する書籍を執筆するほか、連続起業家、YouTuberとしても活躍するI氏だ。ファシリテーションに長け、非常にレスポンスが速いという、コミュニケーションにおける特長も大きな決め手となった。
既存業務の延長にとどまらない柔軟な思考で生成系AIの活用方法を検討できる人材育成をプロジェクト目標に掲げ、同社はI氏とともに、本社およびグループ会社におけるChatGPTの高度活用検証に着手。ChatGPTの理解度と応用力を伸ばす「ワークショップ」を企画・実施することになった。
約2カ月間、全4回にわたって行われたワークショップには、高度活用が期待される同社各部署の若手・中堅社員、グループ会社から募った22人が参加。ワークショップではグループに分かれ、第1回では活用の核となるプロンプト(質問、指示)の作り方など基本知識の周知や業務における活用例や成功事例の共有を、また第2回では第1回で学んだことを踏まえ、差異理由分析など高度な活用方法の共有などにも取り組んだ。
後半の第3・4回では、I氏からさらに高度な活用方法や最新事例の解説がなされ、それぞれが持ち寄った活用アイデアを、実際にAIを使いながら検証。最初は思い通りにコントロールできなくても、プロンプトの最初にどんな指示を置くと良いのか、また具体的で詳細な指示を含めると良い、などI氏から具体的なアドバイスを受けプロンプトを修正していった。すると、ぐんと精度が上がり軌道修正されていく。その体験が「もっとこうしてみたい」といった発想につながり、さらなるブラッシュアップが図られていった。
また、グループは回ごとにメンバーを組み直したことで、普段異なる業務にあたるメンバーとの交流が図られ、発想を広げる一助にもなったという。
最終的には参加者が1人1案発案し、合計22案にわたり業務における具体的な活用アイデアを発表することができた。
メンバーの1人としてワークショップに参加した山田氏は、「ワークショップを通じて業務への落とし込み方や活用のイメージを明確に持つことができました」と振り返る。さらに、I氏の橋渡しもあり、部署や業種がまったく異なる人々とも自然と関わり合う機会が得られたという。
山田氏は「当社やグループ会社の動き、業務のあり方を知ることができるなど、ChatGPTの活用以外での学びもありました」と笑顔を見せる。
「参加者同士が刺激し合える場をつくるのも、目的の一つでした」と壁谷氏も振り返る。
I氏の起用には、ChatGPTに関する最新知識を有しており、YouTuberとして適切かつエンターテインメント性を持って知識をレクチャーできる素養などに加え、プロジェクトに参加するメンバー同士の交流の橋渡し役を担ってもらいたいとの期待を込めていた。
「異なる現場、立場ではたらいている人同士が集まると、どうしても意見がまとまりづらく、関係性を築く際の橋渡しのさじ加減も非常に難しい。今回、ファシリテーションスキルが高く、ビジネス経験も豊富で、人間性にも魅力ある、こちらが求めるすべてを兼ね備えたプロ人材に参画していただいたことで一体感が生まれました。参加メンバー全員が自信を持ってアイデアを挙げることができたと感じています」と語る。
プロジェクト終了後も、良きパートナーに。新サービスのさらなる実装を目指して
ワークショップの場以外でも、チャットツールを使って参加メンバーの疑問や質問に応じていたというI氏。レスポンスの速さもありI氏とメンバー間での意見交換が活性化していった。
「想定以上のスピードでブラッシュアップが進み、参加者全員がアイデアを発表できるところまでたどり着けました」と壁谷氏。
ワークショップで発表された22案の実装に向けた検証も進行中であることに加え、ワークショップ後、参加メンバーそれぞれが所属する組織において生成系AIに精通する人材として活躍。プロジェクトによってデジタルツールの活用に対するリテラシーがより高まったことも大きな成果といえるだろう。
「新しいデジタル技術を柔軟に取り入れて業務を進めることが当たり前になった感覚があります。技術を活用できる人が増えていくことが、将来の名鉄グループ全体の業務スピード向上に寄与するであろうことは明白で、今回のワークショップもその一助になったと感じます」
プロジェクトを振り返る壁谷氏。全4回のワークショップを終え、現在はChatGPTを中心に生成系AIの多角的な活用に向けた複数の検証が進行中だ。壁谷氏はワークショップを実施したことで、社内における生成系AIの活用促進がかなったと手応えを感じるとともに、「顧客向けサービスに実装したり、当社が販売する商品に付帯したりと、生成系AIを実装したサービスをリリースするのが直近の目標」と意気込む。
例えば、現在検討中の活用方法の一つが、画像認識機能を使った遺失物の自動登録システムだ。遺失物が届けられたら駅係員がその画像を撮影・登録することで、生成系AIが自動で分類や特徴を言語化し登録する。これにより、駅係員の業務負担を減らすだけでなく、登録情報の標準化が進み遺失物の返還率の向上を図る狙いがある。将来的には同社の事業に特化したデータを生成系AIに学習させ、利用客が鉄道利用時にダイヤや運賃などを即時に検索できるようなサービスとして提供することも夢見ている。
また山田氏は今回のプロジェクト参加を機に、グループ向けChatGPT活用促進セミナーの講師としても活躍。I氏から直伝されたプロンプトの実例などを発信し、生成系AIを活用できる社員の育成に取り組んでいる。
山田氏は、「体系的に学んだことを、グループ全員に還元していけるよう、さらにグループ内教育を強化していきます。今後も多種のセミナー開催をはじめとした教育・周知・利用拡大に取り組み、ゆくゆくは、ChatGPTを使うことが当たり前となるグループにしていきたいですね」と目を輝かせる。
今回のワークショップ終了後も、I氏はChatGPTの活用に関する相談に応じるなど、同社のアドバイザー的な立ち位置として関係性が続いている。プロ人材との協働によって新技術を当たり前に活用していく同社は、これからも業界における生成系AI活用のパイオニアとして可能性を切り開いていくにちがいない。
- 企業名
- 名古屋鉄道株式会社
- 設立
- 1921年6月
- 従業員
- 単体4,987名、連結28,216名(2023年3月末現在)
- 売上
- 単体903億円、連結5,515億円(2023年3月期)
- 事業内容
- 鉄軌道事業
不動産事業
担当プロ人材より
ChatGPTを業務で活用していくための実践型研修を実施しました。名古屋鉄道様はいち早く生成AIを導入、研修前にも一定の成果を出されていましたが、さらなる活用促進に向けた取組みをご一緒させていただきました。
グループ会社あわせて30代前後の若手リーダーの皆さま20名超が参加され、実務をこなしながらの研修でしたが、積極的にご参加いただき、研修期間中に10時間/月の業務効率削減を実現する等の成果を出すことができました。
大企業での生成AI活用はまだまだ成功事例が少ないのが実態です。本研修をキッカケに、名鉄グループでの生成AI活用がさらに活性化し、成功事例となり、社会全体に模範例として広がることを期待しています。
登録プロ人材 I氏 2013年に独立後、連続起業家として計8社を創業、4回のM&A(Exit)を経験。生成AIのビジネス活用方法をYouTubeや書籍で啓蒙。生成AI/ChatGPTのビジネスへの導入支援、プロダクト開発、研修・ワークショップなどを数十社以上に実施。