サービス導入事例

ダイキン工業株式会社

売上:
1000億円以上
業種:
機械・電気製品

新規事業、研究開発

プロフェッショナル人材とタッグを組み、新しい知財のあり方を検討。新規事業創出に向けた、テーマづくりにも手応え

テクノロジー・イノベーションセンター 担当部長
  • 前田 敏行 氏
  • BEFORE導入前の経営課題

    研究開発対象が情報領域に拡大するに加え、外部協創の戦略的拡大も要因となり、これからの知財戦略を考える必要が生じている。新しい知財のあり方や新規事業創出に資する知財戦略について、知見を求めていた。

  • AFTER導入による成果

    プロフェッショナル人材に話すことで考えを整理したり、議論などしながら、新しい知財戦略の方向性を検討。研究開発対象の情報領域への拡大や外部協創の戦略的拡大、新規事業への接続に踏み出している。

新しい知財のあり方を考えるため、求められたプロの知見

空調機、フッ素化学製品の世界的メーカーであるダイキン工業株式会社。「空気で答えを出す会社」をコーポレートスローガンに掲げ、コア事業である空調事業は世界トップレベルを誇る。いまや誰もが知る存在といえるだろう。

近年、同社が注力する一つに「コトづくり」がある。テクノロジーの発展により、空調機や空調業界を取り巻く環境が大きく変わると予想されるなか、同社もこれまでの「モノづくり」に加え、AIやIoTを空調技術と組み合わせることで、新たな価値・サービスの創出を進めていた。

「空気のスペシャリスト」として空調機器というハードウェアに圧倒的強みをもつ同社だが、ことAIやIoTなどの情報領域は成長過程にある。研究開発対象が情報領域にも広がるにつれ、知的財産部門においても、これからを考える必要が生じてきたという。

担当部長の前田氏は、当時の課題感を以下のように振り返る。「情報領域における標準必須特許や共創知財など、これまでの知財の対応範囲を超えた事象が起き始めていました。役割の広がりを受け、一歩先を見据えた“新しい知財のあり方”を検討していましたが、同時に、我々の考えは第三者からどう見えるのだろうという疑問も浮かんでいました」。同社の目指す方向性に対し、経験者からの意見を求めていたという。

課題はこれだけではない。「知財の視点から研究開発テーマを戦略的に定めるべき」という意見が、徐々に社内から出始めていたのだ。同社が強みとする空調分野に関しては、各技術セグメントが戦略的にテーマを組み立て、研究開発を推し進めている。しかし、こと情報領域においては、ビジョンが見えないまま、さまざまなテーマが走り出している状態だったという。そこで、統一性がなくなりつつあるテーマ群をビジョンの下に整理し、そのうえで新規事業に接続させていく、新たな方向性での知財戦略実践が求められていた。

課題は顕在化しつつあるものの、知見や経験は不足している。そのため、プロジェクトを率いてくれる人材を求めていたが、当初、“外部人材の活用”と聞いても成功イメージはなかったという。

「外部人材は、“人手を借りる”、つまり人手不足に対して有効的な手段という印象が強くありました。もちろんそうした力が必要になる場面もありますが、今回は一緒に議論したり、話を聞いてもらいながら考えを整理できるような方を求めていたので、フィットしないと考えていたんです」。

その折、HiPro Biz(旧i-common)からプロフェッショナル人材の提案を受け、外部人材活用の印象が変わった。「人材不足を補うものでもなく、コンサルティング会社とも違う。課題に対して土地勘のある方に伴走してもらえるという、新たな選択肢として話を伺いました」。

複数人の提案を受けた後、今回のプロジェクトを支援することに決まったのがM氏である。M氏は20年以上に亘り、知財業界でスキルを磨き、企業として必要な知財機能に精通したプロフェッショナル人材だ。弁理士の資格を保有するほか、同社の課題にも経験をもつ。

「我々の課題とMさんのご経歴がぴったりマッチしていたので、ぜひ議論してみたいと思ったのが決め手です。また知財戦略に関しても、外部から見たフラットな意見は参考になると思い、期待していました」と前田氏は振り返る。

価値発揮はプロジェクトを越えて

今回のプロジェクトに際し、M氏と取り組んだのは大きく二つ。まず一つは、知財部門の役割が拡張する状況において、ダイキンにおける新しい知財のあり方や、その取り組み方に対する議論と考えの整理である。同社の考えをM氏に伝え、意見をもらいながら、約半年に亘って今後の動きを方向付けていった。

「我々なりに方向性は考えていましたが、外部から見ればおかしく見えることがあるかもしれません。新しい挑戦だからこそ、気が回らなかったり見落としてしまったりというリスクもあるでしょう。そうした懸念点をMさんと議論することで防ぎ、私たちの進め方を形作りたいと考えていました」と前田氏。

そして、方向付け後から今に至るまで進められているのが、技術者とのワーキンググループによる活動である。ファシリテーターはM氏。ビジョンが見えずにいた研究開発の活動に対し、技術開発調査やビジョンの検討など、要点を改めて押さえながら、どのようにしてテーマから新規事業へ接続できるかを繰り返し試している。

ワーキンググループは若手が中心である。テーマやビジョンづくりに関しては未経験者も多いため、育成の意味も込め、時間をかけて取り組んでいるという。参加者も徐々に増やし、現在は20名を超えた。

支援を受けるなかで前田氏は、M氏の自主性を重んじるファシリテーションが印象的だったと話す。「技術開発のメンバーに対し『それぞれの活動のビジョンを出してほしい』と課題をいただいたことがありました」。その後メンバーが出してきたもののなかには、合格点に満たないと感じるものもあり、思わず口を出したくなったという。

「それでもMさんは決して否定せず『みんなで評価してみよう』と促したんです。『こういうやり方もあるんだな』とはっとしました。自分たちで意見を出し合って考えたほうが、答えに辿り着いたときに実感があるし、たとえ誤りがあっても話し合いを通して気づきやすい。新しい試みだからこそ、こうした導き方が必要だと学ばせてもらいました」。参加者からも「安心して意見を交わせる雰囲気」と好評だ。

加えて前田氏は、目的に応じた可視化の重要性についても反響があったと話す。「知財部門の我々は“強い特許”の必要性を理解していますが、技術者が開発時に必ずしも“強さ”を意識しているとは限りません。技術開発部門にも強い特許への理解を深めたいと考えていたので、相談しました」。

それに対してM氏は、誰もが強い特許を意識したくなる、特許の可視化方法を提案したという。「強い・弱いと表現されると、やはり人は『強い特許を出したい』と考えるようになります。しかしながらそれは、強い・弱いという違いが具体的に表現されないと分からないことですよね。そういう意味でも可視化は大変重要であり、目的に向かって行動を起こすために欠かせない考え方だと教えていただきました」。

強い知財への意識は、プロジェクトメンバーのみならず技術開発全体に広げるべき世界観として、周知を検討している。また、M氏から得た知見のなかには、全社にも広げたいと動き始めているものもあるという。プロフェッショナル人材の価値発揮は、プロジェクトだけに留まらない。

近道を示す、プロ人材の存在

HiPro Bizのサービスメリットとして、前田氏は、プロの知見を借りながら自分たちに合った方法を構築できる点を挙げる。「新しいことに挑戦する際は、これでいいのだろうかと悩むことも多い。しかしプロ人材と一緒に考えることによって、当社としての答えを見つける近道になっていると感じています」と話す。現場を知り、時流を知り、事業としての難しさも知るプロの声を聞きながら前進できるのは、非常に面白いという。「だからこそMさんに限らず、他のプロ人材の方とも一緒に進めていきたいと考えています。ちょうど今、新しい方を提案いただこうとしているところです」と前田氏は期待を込めて話す。

プロジェクト開始から1年3か月(2022年9月 取材当時)。M氏と検討した方針に沿って、プロジェクトは進展しつつある。特に、これまで経験値がなかったテーマづくりに対し、本質を理解しながら一通り経験できたことは、大きな手ごたえになっているという。

「プロジェクトとしてはテーマづくりのその先、新規事業として成果が出ればベストです。しかしその前段階として、我々のやり方の確立が重要ですし、また、進めていくなかで『このやり方は違う』と気づけることも大切だと思います。まだ道のり途中ではありますが、新規事業創出にまで影響を及ぼす知財戦略に組織立てて取り組み、知識と経験を蓄積し続けたいですね」と前田氏は抱負を語る。

M氏とは今後もタッグを組みながら、将来につながる知財戦略の実践を続けていく。

企業名
ダイキン工業株式会社
設立
1934年2月11日(創業1924年10月25日)
従業員
単独7,652名 連結88,698名 (2022年3月31日現在)
売上
3兆1,091億円(2022年3月期)
事業内容
空調・冷凍機、化学、油機、特機、電子システムの製造

担当プロ人材より

ダイキン工業様は、同社の研究開発に関する現状の課題を整理すると共に、将来の事業を見据えて、いま何を改革していくべきかを常に考えておられました。私は知的財産の側面から状況を分析し、大局観からミクロな領域まで様々な視点をもって、進むべき方向性を見定める取り組みを支援させていただいております。知的財産に関する専門的な知見を持った人材も内部におられるので、極めて高度な議論を効率よく交わすことができています。その内容も知財実務の話題から事業戦略の話題まで多岐にわたるため、狭い専門領域に留まることなく大変有意義なプロジェクトの推進が実現できています。ワークショップでは参加メンバーから積極的な発言をいただき、知的戦略や事業戦略の取り組みに対するマインドの高まりを感じています。

登録プロ人材 M 自動車メーカーグループの中央研究所にて、モビリティを中心とする幅広い技術分野の知財戦略等に従事。2009年弁理士登録。2020年弁理士事務所を設立し、大中小様々な企業における知財課題への取り組みを支援する事業を展開している。

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