株式会社ジーテクト
- 売上:
- 1000億円以上
- 業種:
- 自動車・車体部品
経営全般・事業承継
プロフェッショナルの活用により、「事業に貢献できる知財」を実現
- 課長
後藤 絵梨菜 氏 -
腰塚 尚子 氏 -
片山 遥 氏

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BEFORE導入前の経営課題
知財戦略の構築や他社情報を把握・分析した上での研究開発、各事業部門から創出される知的財産を、どのようにもれなく保護するか課題を抱えていた。
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AFTER導入による成果
知財リエゾンの選出による組織的な業務遂行と体制確立によって、全部門の知的財産の保護と特許登録件数が大幅に増加。組織・実務面ともに成果があり、事業への貢献をゴールとした業務推進が加速度的に進行している。
事業に貢献できる知財を目指して

車体部品の専門メーカーとして、車体一台解析・開発技術を強みに、グローバルに事業を展開している株式会社ジーテクト。近年同社が力を入れているのが、知財戦略の強化である。開発部 知財開発課で知財戦略の構築と推進を担う後藤絵梨菜氏は、同社で知財の重要性が高まった背景をこう振り返る。
「ここ10年で、完成車メーカー様から図面をもらい部品を製造する従来型のモノづくりから、自社で開発・設計を行い完成車メーカー様に対し提案していく、新たなモノづくりの在り方が市場で求められるようになりました。提案からモノづくりの過程で、他社の権利侵害を未然に防ぎ、自社製品・技術の独自性を保護する必要性が増し、年を追うごとに知財の重要性が高まっていったんです」
今後もますます知的財産の重要性が高まると予想されるなか、知財を担当する組織をもう一段高いレベルに押し上げる必要がある。しかし、それを実現するには、乗り越えなければいけない課題があった。一つは、研究開発の成果を余すところなく特許出願できるよう体制を整え、ビジネスに活用していくこと。そして研究開発においては、知財情報の活用をすることで、他社情報の把握・分析を効率的に行えるようにすることである。
「さらに先を見据えたときには、研究開発部門以外に生産を担っている4つの国内工場、グローバル12か国、28工場の工場を統括できる知財体制も必要です。大幅な体制改革が求められると考えたことからプロ人材の活用を検討することになりました」と後藤氏は回想する。
同社がHiPro Biz(旧i-common)からサービス提案を受け、本格的な検討を開始したのが2019年12月。なかでも提案を受けたプロ人材Y氏の経歴が突出しており、プロジェクトのビジョンも明確だった点が活用の決め手になったという。
「プロジェクト開始前からYさんは、 “事業に貢献する知財組織になる”ことを第一目標に掲げていました。Yさんの提案資料には、経営層と開発部と知財グループ、それぞれに沿った知財のビジョンが定義されていて、その達成に向けた行動リストも事細かに記載されていた。資料内のビジョンや今後の注力ポイントは、当社がHP上で公開している情報やインターネット上に公開されている弊社の特許から、仮説を立て導き出されていたので、『ここまで事前に調べてくれるなんて!』と驚いたのを覚えています。Yさんの提案資料とジーテクトさんなら業界ナンバー1の知財になれるというプレゼンを聞いて、この方と一緒にお仕事する事で、我々の目標を実現させる事ができるのではと思ったのを覚えています」と後藤氏は笑みを見せる。
手にしたのは、早期の成果と知財の新たな可能性

こうして2020年4月、プロ人材の活用によるプロジェクトが開始した。
“事業に貢献する知財組織になる”という目標に向け、同社はまず、Y氏より提案のあった知財リエゾンの組織化に着手した。知財リエゾンとは、発明者と知財をつなぐ中継ぎの存在である。他社特許の侵害有無の確認や発明の拾い上げなどを担う知財リエゾンを、海外含む11部門に配置したことで、物理的な距離をなくし現場の情報や業界トレンドをスムーズに収集できるようになった。
「私たちは当初、リエゾンという他部門に知財協働してくれる人員を設置するという考えを有していませんでした。しかしYさんの助言をもとに組織化を成功させたことによって、グローバルに知財を管理していくという先にあった目標の達成さえも、一気に現実味を帯びてきました」と、後藤氏はプロジェクト進捗のスピード感と手ごたえを語る。
また、知財開発課で実務を担う、新卒入社の腰塚尚子氏と片山遥氏は、Y氏の参画により「開発の方向性を提示できる知財組織」になってきていると話す。
「Yさんのアドバイスで一番印象に残っていることは、知財が発明の幅を狭めないこと。例えば、発明者に対して『この技術は素晴らしいけど、特許化は難しい』と伝えてしまうと、そこで考えがストップし知財が発明の幅を狭めてしまうことがあるんです。他社の特許があるから駄目だと伝えるのではなく、『他の用途だったらどうか』と、新たな可能性を知財が示すことが重要。実際、発明者へのアドバイスで発明の本質が明らかになり、新たな発明につながったこともあります」。
二人は嬉しそうに言葉を続ける。「Yさんから『この特許と、あの特許を組み合わせれば、こんな開発のゴールも描けるのでは』とアドバイスをいただいたことも、自分にとっては衝撃的でした。それまで知財の仕事は特許を出願し登録することがメインだと考えていたので。知財の動き方一つで“開発の可能性が広がり、ゴールへの道筋まで提示できる”ことを、Yさんから教わりました」と語っている。
また、プロ人材活用のメリットとして、後藤氏はメンバーに対する教育的な側面もあったと振り返る。プロジェクト開始以前は、技術を熟知している開発の管理職が知財業務も担当していたため、発明の理解で苦労することはなかった。しかし、体制改革に伴い新しくアサインされたメンバーは、技術を熟知しているわけではない。
「この状況で本当に成果を上げることができるのか…という不安を抱えていました。しかしYさんから「特許は技術を使った法律の世界」であると言われ、技術者とは全く違ったアプローチで知財を保護する新たな手法を教えていただきました。その結果、新メンバーも含めた新組織で2021年度に新規登録できた特許は16件。当初の不安を覆す数でした。この過程で、若手一人一人が“事業に貢献すること”を意識できるようになったのも大きな成果だったと思っています」。
経営戦略を支える、知財専門部署へと成長

不足している知識をリエゾンの組織化など仕組みで補っていくこと、技術に精通していなくても知財として活躍できる手法、若手にも“事業・開発に貢献すること”が根付くOJT。会社や組織の抱える課題に合ったY氏のサポートによって、プロジェクトは開始1年目から、目に見える成果を上げた。
その結果、組織をまたいで知財について議論する機会が増え、IPランドスケープも取り組み始めた。IPランドスケープは、市場・自社の知的財産を分析して経営戦略に役立てる手法のこと。発明を特許出願し保護するという従来の「守りの知財」とは異なり、変化の激しい時代を切り抜けるための「攻めの知財」と呼ばれるものだ。IPランドスケープの実施により、各部門の本部長と事業性を吟味したり、技術者と一緒になって開発の方向性を決定していけるようになり、事業全体に貢献できる機会も増えているという。
最後に、今後は“事業に貢献できる知財”という当初の目標に加え、知財戦略の開示にも力を入れていく。背景には、国内外のお客さまや投資家の方へのPRの側面があるという。
「Yさんからいただいた、『多くの日本企業は無形資産への評価が低い傾向にあり、知財戦略で遅れをとっている』というお言葉には、私たちも強く賛同しています。だからこそ今後は、事業部・開発部・知財部が三位一体となって、積極的に価値を創造していくとともに、その過程で創出した知的財産、戦略を開示していくことで、企業ブランドを構築したいと考えています」と後藤氏はコメントする。
この活動が進むことで見えてくるのは、お客様が喜ぶ価値の追求、それを実現する技術構築、そこから生まれた知的財産を保護しビジネスに役立てていくというスキームの確立である。
「新たなモノづくりのあり方が求められるなか、このスキームを通してこれまでにない製品を世界に提案し続けることができれば、“人とクルマと地球の未来を形づくる”という当社のコーポレートスローガンの実現にも貢献できると信じています」。
同社は今後もプロ人材を柔軟に活用しながら、スピード感をもって事業に貢献できる知財業務の推進に取り組み続けていく。
※取材当時の情報です
- 企業名
- 株式会社ジーテクト
- 設立
- 2011年4月(旧菊池プレス工業、旧高尾金属工業、両社合併により)(設立:旧菊池プレス工業1953年11月、旧高尾金属工業1952年6月)
- 従業員
- 7,992人※連結(2022年5月末現在)
- 売上
- 2,094億2,000万円※連結(2021年度3月期)
- 事業内容
- 自動車車体部品、トランスミッション部品、金型・溶接設備販売
担当プロ人材より
ジーテクト様は、「CASE」「EV(電気自動車)化」という大変革期にある自動車業界において、「世界の自動車OEMの開発パートナーとなる」ことを目標に、知的財産活動を強化したいと本気で考えておられました。従来の「特許で技術を守る」だけでなく、知的財産を経営戦略に役立てる活動も含めて「業界No.1」の知財活動を目指し、知財部門の立ち上げを支援させていただきました。3年計画のビジョンを立案、実行シナリオを作成、経営トップにプレゼンテーションし認められ、計画を上回る実績も加わり、現在では5名の知財開発課として活動されています。多くの会社で取られている「知財担当者は開発経験者から育てる」という道筋でなく、技術のプロではない知財担当者主体だったからこそ、支援事項をまっすぐ理解され、従来の特許出願権利化部隊にとどまらない経営に資する知財活動ができる知財部門を立ち上げ、成果をあげられたと思います。
登録プロ人材 Y A社で商品開発研究に従事。B社で開発部長、執行役員知的財産部長を歴任し2020年退職。B社では特許出願大幅増、90%以上の特許査定率を実現。権利活用では、国内外の模倣品対策で訴訟を含む解決を主導し事業に貢献、知的財産重視を根付かせた。現在は医学博士、知財戦略コンサルタントとして活躍中。